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武者小路詩音のセルパブ大好き#4ブンゲイファイトクラブ観戦記・全32作品レビュー

ごぶさたしております。

 非実在女子高生・詩音です。エビコー鉄研の文芸担当をしています。というかうちの著者さん、さいきん「ぴっちりスーツ」なるのもにハマってそういう絵を描いているようなのですが……小説の原稿の方はどうしてしまったのでしょうか。いろいろ書いていたはずなのですが。ほんとうに心配ですわ。

ブンゲイファイトクラブ #BFC

 というイベントがいつの間にか始まっておりました。わたくしたち鉄研のみんなが夏の鉄道模型展示で忙しかったうちに準備が行われ、集まった予選作品数300を超えたという噂も伺いました。素晴らしい熱気ですわ。文芸の世界はとうに出版不況などという枕詞とは別に活況なのです。投稿サイトの隆盛を見ると活字離れというのは異世界の話ではと思うのです。見ているだけで本当に胸が踊りますわ。……いえ、わたくしの胸はまじまじと見つめないでくださいませ……。

 でも、うちの著者さんは参加しなかったのです。なぜなのでしょう。戦う相手が別というのもありますが、コンペ形式でないと育てられないものも存在しますのに。

 そこでわたくし、ここでその第一回戦の作品をすべて拝見したうえで観戦記を記しましたので、ご覧いただければ幸いですわ。よろしくおねがいします。

 なお、思ったのですがこのBFC、ファイトクラブという性格上、単品作品としては優れていてもファイトという観点で比較になってしまう点で優劣がついたように思われてしまうのはつらいところです。しかしそれはあくまでも単にこのコンペのルールと趣旨における優劣に過ぎないことは注意して踏まえたいところです。文芸にも生きることについても比較は不幸しか産まないのです。わたくしもその点、肝に銘じたいところです。

ブンゲイファイトクラブさんはこちらのようです。

https://note.mu/p_and_w_books/n/n4288cefb271e

Aグループ

「読書と人生の微分法」大滝瓶太

 とてもシャープで素敵です。持ち味作風を存分なく発揮したのびのびとした作品でみていて清々しく感じられました。

「愛あるかぎり」冬乃くじ

 文芸的な香りが一番強かったと思います。素敵な作品世界ですわ。この作品はそれゆえ、このファイトクラブではなくもっと落ち着いたところで味わいたい気がします。

「あの大会を目指して」鵜川 龍史

 奇想小説でどこか狂奔する世相に対する風刺的なところを感じさせます。それをパワーも存分に書ききった筆致は見事ですわ。

「アボカド」金子 玲介

 たしかにアボカドだなと納得できる、独特のアブラっぽくねちっこく丁寧な描写は素敵ですわ。たしかにこれは文学だしこのブンゲイファイトの趣旨にとても良く沿っていると思います。

対戦を見て

 「読書と…」が一席だと思います。シャープさ、清々しさを支える物語の骨太さを感じました。骨太さなら「あの大会」、描写なら「アボカド」、綺麗さなら「愛ある」もそれぞれ優れているのですが、そのすべてをバランスよく持っていたのが「読書と…」かと思います。でもわたくしの個人的感想に過ぎないのですが。

Bグループ

「飼育」雛倉さりえ

 リズム感、透明感抜群の迫力のホラー。水の量感が存分に発揮されています。それを熟練の筆致で一気に書き抜けた感じですわ。素晴らしい。読んでいると真っ青な水の色がぶわっと浮かびます。

「インフラストレーション」大田 陵史

 モチーフをうまくリレーさせて作品世界を構築していると思います。ライトグレーのPCコンクリートの質感・重量感とキャラクターの対比。物語性よりも言葉のリズムを取った判断が作品世界を独特に主張していますわ。

「宇宙が終わっても待っている」後谷戸 隆

 どこか新海誠さんの高校生の青春SFのような鮮やかで繊細な世界に思えます。日常からぐいぐい展開していって最後がきちっと着地するのが見事。このタイプの話ではまさに王道と言えると思います。

「伝染るんです。」竹花 一乃

 ここまで秀作が続いた中で最後のこの話には仰天しました。わたくしの心にもしっかり爪痕を残していきました…。女性特有の話からまさかデスゲームのような壮絶な話になるとは…。ひいい。

対戦を見て

 「伝染る」が一席にならざるを得ないと思います。他の作品ももちろん秀作揃いなのですが、ファイトというところの「凄み」では「伝染る」になってしまう…。

Cグループ

「天の肉、地の骨」北野勇作

 さすがの熟練の手腕でしっかり物語として堅めながら一気にするどく鮮やかに書き抜けた感じ。流石と思います。しかし若干物足りなさも感じてしまいます。結果短い作品にもなってしまったので、ここで二次三次攻撃が欲しかった気が。

「期待はやがて飲み込まれる草」伊藤 左知子

 奇想からの展開にパワーを感じさせられました。もつれあうような筆致でも粘りづよくモチーフに挑み続けた姿は素敵です。

「来たコダック!」蕪木 Q平

 奇策に打って出た感じがあります。その奇策をよく全うして最後までしっっかり描ききったのは実に素晴らしい。ですが……どうもこのコンペとの相性があまり良くない気がします。単品で別の場でじっくり楽しめたら良かったのではと思います。

「愚図で無能な間抜け」植川

 ネガティブな言葉をこれでもかと乱射し続ける。その言葉のパワーをよく知った上で使っていて、このコンペのファイトという性格にうまく寄せてきた作品だと思います。でも……ここまでやってしまうと言葉の力に物語の骨格が負けてしまう気がしまい、作者のセルフネグレクトに見えてしまったのが惜しいところかもしれません。

対戦を見て

 結局この組はこのブンゲイファイトというものをどう理解するかの勝負だったように思います。それぞれの理解は正しいと思うのですが、結果粘りの強さでわたくしは「期待は」を押したくなります。でもこれも評はわかれるかもしれません。

Dグループ

「その愛の卵の」齋藤優

 セルパブらしい滋味あふれる素敵な中間小説ですわ。本当ならこれもこのファイトの場ではなくもっと別のゆったりした場所で優雅に味わいたいと思ってしまうのです。でも中間小説が一般の文芸世界で甘く見られてしまう理由もわかってしまう気がします。この滋味はこのファイトの場にはもったいない気がしてしまう……。

「甲府日記 その一」飯野 文彦
 これも中間小説味があって素敵なのですが、いまいち他の闘志満点の作品と並べるともったいない気がしてしまいます。じっくりと味わいたい……。この小説は競う小説ではありません、という優雅な気持ちで読みたい……。

「逆さの女」正井

 この作品はホラーだけどコメディ的なところがある気がします。どうも想像すると笑ってしまう。笑ってしまうけどほんのり怖い。怖いけど笑ってしまう……こういうのわたくしはスキなのです。

「殺人野球小説」矢部 嵩

 パワー、着想、パンチ力豊富で力が有り余った作品だと思います。ひたすら男臭くパワーでブンブン壮絶に振り回します。文句なくすごい。ファイトクラブらしく『殺しの目』をした作品。これにはハートマン軍曹も「気合が入ってる!」と満点を出しそうです。

対戦を見て

 「逆さ」と「殺人野球」がバチバチ戦うなか、他の2作品はそれを優雅に見守るような展開だけど「殺人野球」が圧倒でしょう。でも「逆さ」をわたくしは捨てがたいのです…。どうしたらよいのか。

Eグループ

「私の弟」大前粟生

 ほのぼのとした家庭の姿かと思いきや、そのテイストを守りながらいつの間にかとんでもないことに。日常系ホラーで素敵。やはりこの長さでパンチの効いた作品にするにはSFかホラーが第一選択なのだと思わされます。手堅さを感じます。

「抱けぬ身体」原 英
 冴え渡った俳句で素敵。文芸のかおりもしっかり漂います。しかしこの小説の多く参加する場において俳句の奮闘は素晴らしいし見ていて心動かされるのですが、いかんせんわかりやすさという面でのビハインドをどうこじ開けるか、それは難しすぎる気がします。

「立ち止まってさよならを言う」 栗山 心

 これも滋味のある中間小説で素敵なのですが、ファイトの場にはまたちょっともったいない気がします。じっくりこれも別に縦書きの本にして楽しみたい……。ファイトの結果だけが評価軸ではないのは再三注意しておきたい。この作品も作品として素敵だし、レベルも高いのです。個人的にはテツに少し寄せてきたのもスキだし、出てくる食べ物も美味しそうなんですよね……。これが評価されるといいのですが。

「月と眼球」式さん

 SFへメタ的に怒涛の展開をしていくイキオイが素敵。しかも作品世界に限界なし!を実践するかのようなその広がり方がSFマインドを激しく刺激します。こういうの好きなのです…。奇想を書ききったのが見事。

対戦を見て

 ファイトクラブとしてあきらかな「殺しの目」をしていたのは「私と」と「月に」だと思います。ここはジャッジさんがどういう判定をするのか、わたくしには想像もつかないのですが、個人的な好みでは「月と眼球」を押したいです。でもこの組の対戦は実力伯仲だった感じがします。

Fグループ

「手袋」珠緒

 ひゃああああ。痛い痛い痛い痛い! 超王道ホラーです。ひいいい。でもこの王道ぶりがイマイチと思う人もいるのかも。わたくしはそれでもここまで書ききったら立派だと思うのですが……。

「天空分離について」伊予 夏樹
 個人的好みでこういうフェイクな世界のぶっ飛び方がスキなのです。SFでもありファンタジーでもありなので、好きな人は好きだと思うし、私もスキなのです。なぜかすごくワクワクしてしまいます……。

「遠吠え教室」蜂本 みさ

 民話的なとこも含んでいるSFなのかもしれない深みが素敵。ぐぐぐっと来ます。これも風景が浮かんで文学的にも優れていると思います。「贈り物」のところがとくに秀逸だなと思いました。

読書感想文「残穢」 一色 胴元

 はじめからおわりまでニヤニヤが止まりません……。こういうフェイクをつかった仕掛けは、本当に書いてても読んでても楽しいですよね。素敵。

対戦を見て

 フェイク・ファンタジー、フェイク・ナショジオSF、フェイク・文芸論のと3連発した中で「手袋」がひとつ王道として残っています。王道が残るべきか趣味が残るかの判断。わたくしは順当に行けば「手袋」かなあと思いますが「遠吠え教室」も「天空」も残したいと迷っています。興味深いジャッジになるのではとも。

Gグループ

「跳ぶ死」伊藤なむあひ

 歌劇「エリザベート」で死が扱われてますがあれは死神トート。でもこれはなんだか「げっ歯類」みたいなどこか可愛い死。それをNHK「ダーウィンが来た!」風味に描いていく。その描写と言葉の間の距離感が生み出す世界が独特に知恵熱出しそうな難解さを醸しています。異色らしい持ち味を出し切った作品。素晴らしい。

「夏の目」吉美 駿一郎
 これもぐぐぐっと攻めてきます。映画「ファイトクラブ」を連想してこのコンペの趣旨の理解の深さを感じます。でもわたくしの理解力不足なのでしょう。「アラ―」がどうにも疑問手に思えてしまうのです……。もうすこし説明がほしかった気がします。惜しい。

「ニルヴァーナ 川柳一〇八句」川合 大祐

 108作の川柳の波状攻撃は圧巻です。しかし、川柳の得られる理解の世界が窮屈に見えてしまう…。同じモチーフなら小説で読みたいと思ってしまうのです。すみません…。

「パゴダの羽虫」中島 晴

 正直、わたくしには難しかったです…。なにかの暗喩かと思ったのですがそれにたずね当たらない…。すみません。でもこういうのも文学だと思うのです。もうちょっと説明が欲しかったのか、それとも狙いが全く別なのか。判断できないのです。

対戦を見て

 「跳ぶ」が無難に先に進みそうですが、でもこれはわたくしの浅慮だけなのかもと思えてきました。むずかしい。でも「跳ぶ」は圧倒的に素晴らしかったとも感じました。

Hグループ

「鳩の肉」齋藤 友果

 悲しみを含んだ落ち着いた筆致で、しっかりとモチーフを掘り下げて書いた立派な文学です。まさにこういう小説とししてはお手本のようなすばらしい端正さ。完成度も高いです。

「ハハコグサ」磯城 草介

 心に小さな火が灯るような感じの中間小説だけどどこか現代を映している作品。こういう作品こそ読みつがれていってほしいと思います。セルパプの意義を一番感じました。じつによい。

「くされえにし」林 四斜

 匂ってきそうな生活描写の精密さ。これも現代のセルパブの意義を存分に示した作品だと思います。冷蔵庫内の描写がとくに優れて文学のような気が。たまたまかもしれないけど「ハハコ」と対になるような作品なので、これはファイトの軸とは別に高く評価しておきたいのです。

「ハワイ」貝原

 南国の空気、日差しを存分に描いた作品。これもセルパブらしさをよく発揮していると思います。

対戦を見て

 順当に行けば完成度の高さで「鳩の」が一席のように思います。でもほかもレベルは高いので、ジャッジの判断に注目したいところです。

一回戦を観戦して(むすび)

 いずれも素敵な作品揃いでしたので、どれが一回戦突破しても面白い。そのなかでいくつか注目したいジャッジもありますが、現代文芸シーンとしてじつに意義深いコンペにすでになっていると思います。

 最後に、コンペの運営と300作とも伝え聞く予選作品を読んでこのコンペを成立させてくれたスタッフの皆さんに深く感謝します。

 一回戦のジャッジと二回戦のファイトにも注目します。楽しみ。

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