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BEASTスポンサーへの道⑥【破 其之伍】

Мリーグ2023-2024ドラフト会議(了)

【第四巡指名選手】 中田  花奈 (日本プロ麻雀連盟)

♪アイドル♪
   加齢と共に衰えるのは、何も記憶力と食欲だけではない。つまらない持論だが、流行りのアイドルに対する無関心の増大も、年を取った証のひとつである。
    個人的に好きだった最後のアイドルは、モーニング娘。である。特に4期のメンバーが加入した頃が一番好きだった。いい年をして、写真集やDVDも買った。コンサート(今風に言えばライブか?)に行かなかったのは、家内の冷たい視線が怖かったからである(笑)。モーニング娘。は、7期唯一のメンバーである久住小春までは知っているが、それ以降は完全に興味を失った。
     秋元康がプロデュースした、多人数アイドルグループの存在は知っていた。しかし、その中で知名度の高いメンバーの顔を数人認識できるだけで、興味は全く無かった。しかし、好きと言わないまでも、興味を抱くに至ったアイドルが、そのアイドルグループ群の中で、2人だけ現れた。SKE48の須田亜香里と、乃木坂46の中田花奈である。
     二人の共通点は言うまでもない。須田亜香里は「熱闘!Mリーグ」のアシスタントMCであり、中田花奈は同番組の準レギュラーだった。
     須田亜香里は、番組スタートの頃は、麻雀に関しては全くの素人で、Mリーグの試合に関しても、内容の薄いコメントしかできなかったが、中田花奈は違った。「熱闘!Mリーグ」では、番組の前半にその週の試合のダイジェスト映像が流れる。そして、メインMCである爆笑問題の田中が、ゲストにコメントを求める。
    「VTRには無かったんですけど〜」で始まる中田花奈のコメントが好きだった。映像はダイジェストなので、試合のほんの一部のハイライトしか映らない。中田花奈は番組の映像としては取り上げられなかったが、自分が観て凄い!と思ったプロの一打を、興奮気味にとても楽しそうに語る。この娘は麻雀を、そしてMリーグを、本当に好きなんだなぁと思って観ていた。

プロデビュー
 
2021年、前年 乃木坂46を卒業した中田花奈は、日本プロ麻雀連盟のプロテストに合格し、麻雀プロとしてデビューした。そのデビューイヤーに、麻雀最強戦のアシスタントも務めた。岡田紗佳(日本プロ麻雀連盟)や長澤茉里奈(日本プロ麻雀協会)のように、麻雀最強戦のアシスタントを務めた後にプロになった例はあったが、現役のプロが麻雀最強戦のアシスタントになったのは、中田花奈プロが初めてである。
     中田プロはこの年  連盟で新設された、桜蕾戦という29歳以下の女流プロだけに参加資格が与えられるタイトル戦で、いきなりファイナリストとなった。この第1回桜蕾戦で優勝したのは、後にKONAMI麻雀格闘倶楽部に指名されることになる、伊達朱里紗プロである。
     Mリーグデビュー3年間で、全ての個人タイトルを獲得し、天才とも称されている伊達プロに、桜蕾戦の決勝で敗れたことが必然であったとしても、中田プロが「もっている」ことは、このタイトル戦で証明された。

プロの必要条件
    中田プロの麻雀は、菅原プロの麻雀以上に観る機会が少なかった。EX風林火山のオーディションの放送対局(ただし1回限り)、第1回桜蕾戦の決勝戦(ABEMAのアーカイブ)、麻雀最強戦、そして2023-2024シーズンのMリーグで出場した14試合だけである。
     アイドル時代から始まった冠番組「かなりんのトップ目とれるカナ?」での麻雀対局で、好成績を残していることは知っていたものの、番組を観る機会は最後までなかった。
      中田プロの麻雀は、面前主体で やや守備寄りのオーソドックスな麻雀で、可もなく不可もなくといった印象だった。僕が麻雀プロを定義する上において、必要条件のひとつとして、アマチュアが決して真似することが出来ない打牌をすることを第三に挙げる。(第一と第二は秘密♪)
    例を挙げると、まずは土田浩翔プロ。配牌から4巡目くらいまで、予想だにしない打牌選択をし、数巡後にはいつの間にか手牌が纏まっている。まるで手品を見ているようである。Mリーガーの中から選べば、園田賢プロと鈴木たろうプロである。二人とも仕掛けを多用し、手牌が短くなっても放銃しない。3副露しても手の中がバラバラ、という光景も少なからず見る。己の緻密な読みに自信を持ち、それを勝負に委ねているからからこそ、出来ることであろう。土田プロは、この二人とは根本的に異なっている。彼は宇宙の聲を聴きながら、麻雀を打っている。

    またまた脱線してしまった。中田プロに話を戻す。中田プロは自身の雀力を自覚している。それと同時に、自分がMリーグに、そして麻雀界に果たすべき使命も自覚している。プロの世界は、どのジャンルに於いても、結果を求められる。結果が出ないと叩かれる、そして契約を打ち切られる厳しい世界である。中田プロはそれらを全て理解した上で、Mリーガーになるという甘美な茨の道を選択した。その根底にあるのは、「麻雀愛」の一言に尽きるのではないだろうか。
    中田プロのMリーグ初年度の個人成績は、▲261.3ポイントで36人中35位。着順は(1-1-10-2)だった。3着が最も多かったが、ラスは少なかった。堅実に麻雀を打つ代償として、プラスポイントを持って帰れなかったようにも見えるが、対局相手の中に好調者がいて、思うような麻雀を打たせてもらえなかった、という印象の方が強かった。よく使われている陳腐な表現だが、プロ歴の浅い中田プロには、伸び代しかない。それが最大の強みである。

インタビューが生むドラマ
    Mリーグでは、試合終了後、松本圭世さんらによるインタビューが行われる。初年度は所謂 勝利者インタビューで、トップを獲得した選手だけに与えられる特権であった。2年目からは、トップを獲れなかったプロにも焦点を当てるため、トップ以外の選手へのインタビューも、行われるようになった。4位の選手へのインタビューがメインだが、2位、3位の選手へインタビューも、試合展開によっては時々はある。
      このインタビューは、時としてドラマを生む。僕がMリーグのインタビューを観て、貰い泣きしたことが2度ほどある。1度目は岡田紗佳プロがMリーグで、初めてトップを獲った時のインタビューである。麻雀を共に学んだ戦友でもある、松本圭世さんの顔を見て、緊張感から解放された岡田プロの目から、思わず涙が溢れ出た。まつかよさんの目にも涙が浮かんでいた。今思い出しても感動的で、印象に残るインタビューであった。
   2回目は東城りおプロが、直前に亡くなられたお母様に、何としてもトップを捧げたかったと、途中から涙ながらに語ったインタビューである。正直言って、僕は東城プロのことは、少々苦手だった。ミス・パーフェクトの通り名が示す様に、余りにも美人過ぎて、圧倒されていたからである。しかし、このインタビューを観て、彼女が家族愛に満ちた心根の優しい、ごく普通の女性であることが解った。東城りおプロは、見た目が良いだけの麻雀プロではなかった。

ドキュメンタリー【熱狂】が伝えた真実
   ここ数年、Mリーグのシーズン閉幕後、プレミアム会員限定で、「M.LEAGUE  オリジナル ドキュメンタリー  熱狂」というチーム単位のドキュメント番組が、オンエアーされている。選手たちの知られざる生々しい映像が流され、一瞬たりとも目を離せない、高濃度なシーンが満載の番組である。

     2024年1月19日第2試合  10戦目の登板で、中田プロが2回目の4着を取った試合で、トップを取った日向プロの前に、インタビューを受けたのは、3着の鈴木優プロだった。何故  中田プロがこの日、インタビューに出て来なかったのか?このドキュメントを観てその理由が解った。彼女はこの時、インタビューに応じられる精神状態ではなかったのだ。

     レギュラーシーズンの中盤戦、BEASTは一時最下位にまで落ちていたが、猿川プロの復調により、着順を上げチームは連対を続けていた。そして、セミファイナルへの切符も射程圏内にまで迫っていた。その状況で、中田プロにバトンが託されたのが、この2024年1月19日の第2試合であった。
      試合展開は、日向プロが独走状態で、南1局が終わった時点で、中田プロ、萩原プロ、優プロによる2着争いの三つ巴の様相を呈していた。南2局 親番は中田プロ。親番を死守したい中田プロは、好調な日向プロの闇聴8,000点に刺さり、2着争いから大きく後退。そして南3局、親番 萩原プロの18,000点に放銃し、この半荘のラスを決定付けてしまった。
     
     ドキュメンタリーでは、楽屋に戻った中田プロが「ごめんなさい。。」と、チームメイトに謝罪しながら号泣するシーンが流れていた。悲痛な映像だった。普段はメンタルが強い中田プロだが、この大事な時にチームに迷惑をかけてしまった自分の未熟さを許せなかったのだろう。
   菅原プロが中田プロの背中を優しく抱いて、「大丈夫だから。明日から切り替えよう」と慰めていた。大介さんは「ぽんのみちも始まったし、大丈夫だよ」と何とも不器用に慰めの言葉を掛けていた。猿川プロは・・・何も言葉を発さず、中田プロが泣いている姿に、無表情に視線を向け、そして外していた。
     その後、猿川プロが中田プロにLINEでメッセージを送って、アドバイスをしていたことが、ドキュメンタリーの中で明かされた。慰めの言葉ではなく、迷走している中田プロに、原点に還って自分の麻雀を打った方が良いと伝えていた。中田プロに立ち直ってもらうために、そしてチームが勝つために、キャプテンとしての責務を人知れず果たしていた。格好良いなぁと思うと同時に、普段 無口な猿川プロの内面には、チームメイトへの思いやりと、奥深い思慮が潜んでいることを知ることが出来た。
  
初勝利〜プロとしての矜持
    2024年1月29日第1試合  登板11戦目、中田プロは自ら登板を志願し、そしてMリーグという舞台で初トップを取った。勝利者インタビューで、僕は中田プロが感涙にむせるシーンを想像していた。しかし、現実は想像と違った。中田プロが初めて4着を取った時のインタビューと同じように、凛とした表情で、背筋を伸ばし、時おり笑顔を浮かべながら、優美にそして典雅に、インタビューに受け応えをしていた。自分の麻雀を取り戻せたことに、手応えを感じていたのであろう。心做しか、吹っ切れた表情をしていた。

    開幕戦出場選手をファン投票で決めるのが、BEASTの定番となった。前季は「自分に投票しないで」とファンに、懇願していた中田プロだったが、今季の中田プロは違った。「皆さん、観てみたい選手に投票してください。もし、それで私が選ばれたら出ます。頑張ります」と、明るい表情で語っていた。2024年9月4日に生放送された「BEAST ROAD」の、番組終盤のワンシーンである。
     この言葉は、中田プロがオフシーズンに、麻雀の研鑽を相当に積んだことによって生まれた、自信の現れであろう。猿川プロがこの番組で、中田プロを今季のキーマンとして、名指ししたことにも納得が行く。2024-2025シーズンの中田花奈プロは、Mリーグの舞台で内容は勿論のこと、数字でも麻雀プロとして成長した証を、我々に見せてくれるであろう。

    思わせぶりなタイトルへの核心に迫る時期の到来は、間もなくだ。
                                                                      to be continued.        

   

   



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