時代小説への扉〜『吉原御免状』

10月後半ってなんでこんなに忙しいんですかね?しかも、この2週間を振り返ってみたら、形に残る仕事はほとんどやってないというミステリー。唯一この期間に形跡をとどめたものをご紹介。

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仕事ではないのですが、とある教室の生徒さんにデザインしてもらった一筆箋のデータを使い、冊子状にして製本しました。ちゃんと1枚ずつちぎれるようになってるんですよ(たぶん)。ど素人の手作業だったので、一つ一つ幅を揃えて切るのが笑っちゃうくらい大変でした。絶対こんなやり方より上手い手があるはずだけど、それが思いつけね〜!!と、ニヤニヤしながら地道に頑張った甲斐あって、会心の作品に仕上がった気はします。

なーんて地味な近況報告はほどほどに、さっそく本題に入るとします。今回取り上げるのは、隆 慶一郎著『吉原御免状』です。長年図書館で勤めてきましたが、5年ほど前にこの本をある方から教えてもらうまで、実は作者である隆さんのお名前すら存じ上げませんで…と言うか、告白しちゃいますと、この本に出会うまで、いわゆる日本の時代小説とか剣豪小説といったジャンルをほとんど読んだことがありませんでした。本との出会いとは奇なるものですね。。。

。。。。。

ライブ後の歓談の賑わいにやや気後れしつつ、ひとり所在なく壁にもたれて携帯(さすがに当時もスマホでした)を見るともなく見ていた右目の視界の端に、やけに美しいウォーキングスタイルで、横長なフロアの向こうの端から、スタスタとこちらに一直線に向かってくる男性の姿が、、ま、まさか……そんな訳、、うわっ本物!いやいやいや嘘でしょ!なんかこっち来るけど、、なんで?!まじで!!

「いや〜、お待たせしちゃってすみません!」

こちらの動揺なんかお構いなく、開口一番軽やかです。ぎえーっ!!お待たせって!私たち、待ち合わせてましたっけ?!あっ…メールか!確かになんか書きましたけど、、「お渡ししたいブツ(お土産その他)があるので、可能であればライブ終了後に少々お時間を…」的なことを。。それでわざわざ見つけてもらって、声かけてくださるなんて、思いもよります?!よる訳がない!!(反語)なんかもう、、ドラマのワンシーンなのかな、と

と、ここまで3秒くらい、脳内を駆け巡った独り言です笑 夢のようなシチュエーションに焦ってしまい、自分でお願いしておきながら、何ならちょっと逃げ腰くらいの失礼な驚き方をした記憶が。。5年経った今でも大変に尊敬しており、この人ほど叩き姿とその音にロマンの感じられるドラマーはいない、と思っている方との一件です。

これ以前に、何度か送らせてもらっていた(愛が重すぎる)長文メールを、思いがけず褒めて頂いたことがあり、その際に職業を問われて思わず口を濁してしまった回(ライターか何か文筆業的な類と思ってもらったらしく、いえいえ、とんでもない…)があったせいか、このドラマ回でも引き続き職業を聞かれる流れになって、その時はお恥ずかしながら「図書館なんです…けど、たぶん日本一(いや、世界一)本を読んでない司書なので…」と白状したのですが、たしかそこから、読まれている本の話をお聞きすることができて、そのときに出てきた書名の一つが、『吉原御免状』だったのでした。

【あらすじ】「宮本武蔵に育てられた青年剣士・松永誠一郎は、師の遺言に従い江戸・吉原に赴く。だが、その地に着くや否や、八方からの夥しい殺気が彼を取り囲んだ。吉原には裏柳生の忍びの群れが跳梁していたのだ。彼らの狙う「神君御免状」とは何か。武蔵はなぜ彼を、この色里へ送ったのか。ーー吉原成立の秘話、徳川家康影武者説をも織り込んで縦横無尽に展開する、大型剣豪作家初の長編小説。」(新潮文庫版裏表紙より)

“作家初の長編小説”、とありますが、作者の小説家デビューは61才と遅く、それまでは本名の池田一朗名義で「水戸黄門」(70年代)、「鬼平犯科帳」(69年)、「ご存知遠山の金さん」(74年)という錚々たるラインナップのテレビドラマなどを手掛けてきた脚本家だったそうです。残念ながら、作家デビューを果たした後、わずか5年で急逝されたため、小説家としての作品数はかなり限られたものとなってしまっているようですが、その斬新な切り口とエンターテインメント性の高い作風には熱烈なファンが多いようで、少し検索しただけでも、熱い賛辞がすぐに見つかる作家さんです。その中から、著名人編2つをご紹介…

作家の安部龍太郎さん、隆さん愛に溢れすぎてます。お墓まで…

▪️安部龍太郎氏 隆慶一郎作品を敬愛し晩酌をやめて墓を購入 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/261157 #日刊ゲンダイDIGITAL

知と本の大家・セイゴオ先生も、千夜千冊の中で本作を大変なお気に入りの作品として上げておられます。こちらの紹介文だけでも、うずうずするほど読みたくなるはず!

▪️松岡正剛 千夜千冊 意表編 0169夜『吉原御免状』https://1000ya.isis.ne.jp/0169.html

さてさて、5年前の私の方は、と言いますと…

へぇ〜っ、時代小説ですか…!意外!と思ったと同時に、ファンの無謀なお願いにも真摯に応えて下さろうとするその律儀さとか、意外と古風なムードもお似合いなところがある方なので、はー。やはりモテる男は読んでるものも一味違うな〜!などと感心した記憶があります。あと、ふつうに読書を楽しんでらっしゃる雰囲気が感じ取れて、それが何より嬉しかった…!その日は他にも、読みたいのにどうしても読めない本(眠くなるそうで…)の話などもお聞きできたりして、本好きにはたまらないひとときとなりました。

その後、他館からお借りしたものを取り寄せ(当時はネットで買うよりも、こちらの方が早かった気がする)、すぐにこの本を読んでみました。

“県立からお借りしたこちらを夢中読みして、気づいたら…朝!死と隣り合わせ、だからこそどうしようもなく匂い立つ生命力と色気の凄さ。所々で民俗学的考察が展開されるのも面白いです。9歳にして誠さまを膝枕するおしゃぶとの展開も気になり過ぎる…!”

“この物語を引っ張る「無縁」や「公界」という概念、とても憧れてしまいました。俗世間や身内、友人と完全に縁を絶ち、それらと引き換えに手に入れる自由と平等。この物語では吉原でしたが、今の世の人こそ、誰にもとらわれないそういった場所や世界がそれぞれにあるといいのに…と思います。”

この本を読み終わった当時の私が書いたツイートですが、初めての時代小説に大興奮のもよう/// 「おしゃぶ」というのは、不思議な力を持つ齢9つの女の子の呼び名なのですが、主人公の誠一郎と未来の関係を匂わせる場面などもあったりして、たいそう魅力的な登場人物の一人です。2つ目のツイートに上げた「公界(くがい)」という言葉こそ、この作品の裏テーマになっているような概念で、、私の中ではここがとても突き刺さってきた…!民俗学の世界へと通じるキーワードなんですよね。セイゴオ先生が上げておられた網野善彦などにリンクしていく窓となっています。

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本というのは、モノであるけど、記録であり、記憶にもなって、持ち運べる小さなカルチャーみたいなところもあると思うのです。そんなことも加味して、これからも好きだな、とか気になるな、と思う人には、読んだ本のことを聞いていく人であり続けると思います。好きな人が好きと思うその世界を、自分の掌の中で一切遠慮なく擬似体験できるなんて、震えるほど最高だと思いませんか…?!(ヲタ脳)







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