わたしに無害な人/チェ・ウニョン

今はいなくなってしまったけど、かつて確実にいた自分を、この小説の中に何度も見つけました。チェ・ウニョン先生に、書いてくれてありがとう、と言いたい。

本作は短編集ですが、どの話も子供時代を子供らしく過ごすことを許されなかった人たちを描いています。そして、そんな傷を抱えながら生きていく中でなんやかんや・・・という話なんですが、

なんかすごい共感できたんですよね。過去の読書体験を振り返ると、共感できる登場人物がいても、読み進めるにつれて凄惨な過去が明らかになったりして、その瞬間「あ、おれここまでひどい目にはあってないわ」って距離を感じてしまって、それ以後はイマイチ乗り切れずに読み終える、という感じが多かった。でも、この作品には距離を感じませんでした。自分そっくりの登場人物がいるわけでもないのに、なんでだろう?と不思議だったけど、著者のあとがきを読んで少し分かった気がしました。

とても遠くへ行きたかった。個人行動がしたかった。個人行動なら誰も傷つけたりしないだろうと信じていた。無害な人になりたかった。苦痛を与える人になりたくなかった。人間の与える苦痛がどれほど破壊的か体で感じていたから。 でも、果たしてそうだったのだろうか、私は。

こういう著者が書いた作品だから共感できたんだな、と。他ならぬこの著者が書いた作品だからなんだな、と。この作品と著者に出会えたことが、とても嬉しいです。

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