PIXAR世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話/ローレンス・レビー

素晴らしい作品を数多く生み出すピクサーのクリエイティブな面ではなく、財務という非常に実務的、ビジネスライクな面を著した本書。お金の話なので、魔法のような作品たちの裏で繰り広げられるドロドロとした生臭いマネー話を期待したが、全体的に淡々としており、なんというか地味だった。

著者の人柄なのか、とにかく粛々と実務をこなしてIPO成功させました。終わり。という感じで、、、いや、すごいことをやり遂げているとは思う。金は出すけど無関心なオーナー、ジョブズ。経営はダメダメだが素晴らしい作品を生み出すピクサーの面々。その両者の間にある大きな溝。さらにディズニーに首根っこを掴まれる圧倒的に不利な契約の存在。そんな中で着任から1年でIPOを成功させるなんて並大抵のことではないはずだ。そこには様々な人間ドラマもあったはずだろうに、各章のエピソードはさらっと過ぎていく。灰汁がないという感じ。

著者は言うまでもなくメチャクチャ優秀な方なんだろう。自分のミッションをしっかり把握して、課題を炙り出し、決して感情的になることなく、やるべきことをやる。もちろんミッションは達成する。理想のビジネスマンを体現したような人だ。その上、家族を愛し奥さんやお子さんからも愛されている。完璧なのだ。だからつまらない。誰も出木杉君の自伝なんて読みたくないだろう。

頭のいい著者はそんな自分をちゃんと把握している。自らを企業戦士と呼びその役割を演じている、という。ミッションを完璧にやり遂げた著者だが、本書の後半で、役割ではない、自分が心の底からやりたいことはなんだ、と自問し始める。そして・・・と面白くなりそうな予感がするが、この時点で残りページは1割ほどしかない。もっと読みたいと思ったが、本書はピクサーのお金の話だ。このくだりはむしろ蛇足だろう。

何かに夢中になっている人は見ていて面白い。見る人の心を打つのだ。そういう観点で本書を見ると、著者はピクサーの立て直しに全力を投じたが、それはあくまで役割であり、心からやりたいことを夢中でやるのとは違ったのだろう。だから読んでいて面白いと感じなかった。しかし蛇足の章には興味を引かれた。そこには著者が夢中になる過程が書かれていたからだ。

まあ、肝心のお金の話が表面的にしか書かれていないので、もっと突っ込んだ話があれば面白かったと思う。というかこの内容でこの題名はダメじゃないか?原題は違うんだろうか。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?