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勲章制度は、このままでよいのか

2024年春の叙勲が本日、発表された。黒田前日銀総裁も叙勲を受けており、それに対する賛否が巷で議論されているが、日銀の「異次元の金融緩和」やアベノミクスの功罪については別の機会に述べるとして、今日は、叙勲制度自体のありかたについて考えてみたい。

勲章制度とは 
内閣府のホームページによると「栄典は、国家又は公共に対し功労のある方、社会の各分野における優れた行いのある方などを表彰するもので、勲章及び褒章があります。」となっている。
「国家又は公共に対する功労」「社会の各分野における優れた行い」に対して称えリスペクトをしていくという制度趣旨そのものについては、私も異論ない。公務員の汚職や企業における不祥事を防止するという間接的な意味合いもあるだろう。しかし、その内容や実態には様々な課題や問題点があると考えている。

勲章の種類
 まず、勲章にどのような種類があるかという点について、文化勲章や外国人、危険業務従事者に対する特別なものもあるが、それらを除き一般的に以下のような区分がされている(女性に対する宝冠章もあるがここでは、説明をシンプルにするために割愛させていただく)。①大勲位菊花章頸飾(けいしょく)②大勲位菊花大綬章、③桐花大綬章、という最上級があるが、これらはめったに与えられない。次に、「旭日章」(国家又は公共に対し功労のある者。功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた者)と「瑞宝章」(国家又は公共に対し功労のある者。公務等に 長年にわたり従事し、成績を挙げた者。)という2種類の区分があり、「旭日章」のほうが「瑞宝章」よりランクが上とされている。また、その「旭日章」「瑞宝章」それぞれについて、大綬章、重光章、中綬章、小綬章、双光章、単光章の6ランクがある。つまり3+2×6=15で15種類のランク分けがされている。上記の①~③は、前述のとおりめったに授与されることがないので、通常は12種類の中で授与が行われる。

勲章の問題点
私は問題点として、①基準が不透明、②民間人の割合が少ない、③在職期間など形式的な判断になっている、④世代交代阻害を助長する、の4点を挙げたい。

1 基準が不透明であること
「勲章と褒章の候補者は、各府省の大臣などから内閣総理大臣に推薦され、内閣府賞勲局での審査を経て、閣議決定」され、では、各府省でどうしているかというと「通常、都道府県・市町村や関係団体から推薦された方の中から候補者を選考する」(通常推薦)のが通常で、その選考方法とは別に、「国民から春秋叙勲の候補者としてふさわしい方を内閣府賞勲局に直接推薦する」(一般推薦)方法もあるようである。
勲章の授与基準は、平成15年5月20日の閣議決定(最終改正 平成18年12月26日)で、一応定められている。例えば「旭日大綬章」については、内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長又は最高裁判所長官の職にあって顕著な功績を挙げた者など、それぞれのランクごとに例示されている。ただ一方で「その者の功績全体を総合的に評価して、より上位の勲章の授与を検討することができる」とされているので、結局基準はあいまいである。例えば、知事でも在任4期以上務めた人が「旭日大綬章」を授与されている。
このように、一応の基準はあるものの内閣府賞勲局での審査は理由も開示されずブラックボックスの中にある。

2 民間における貢献があまり評価されないこと
今回の日本人受章者のうち、民間受章者は46・0%にとどまる。また毎回のリストを眺めた感想では、特に「旭日章」「瑞宝章」ともに、大綬章、重光章、中綬章といった上位ランクでは、政治家、公務員や大学教授などが大部分で、大会社の社長などがわずかにみられる程度である。内閣府自身が述べているように「社会の各分野における優れた行い」を表彰するものであるなら、政治行政司法や教育以外にも「社会の各分野」というのは様々おこなわれていることに鑑みると、この46%しかないという割合あまりに小さく、民間企業や農業含む自営業の方々の社会貢献というものが軽視されている。

3 在任期間など形式的な判断になっていること
上記1で述べた知事の例のように、結局、在任期間が長いほど功績が大きいとされ、形式的な判断になっているように思う。功績は、在職年数の長さで判断されるものではないと思う。衆議院議長や参議院議長は、政治家として有能でなくても、当選回数さえかなり多くなれば就任できる確率が高まる役職である。
また理由を説明しないしおそらくできないということは、逆に言うと「あの人が〇〇章で、なぜ自分が〇〇章なんだ」という不満を生まないように、形式的な判断にならざるを得ないということを意味する。

4 世代交代阻害を助長しかねないこと
勲章制度は、基本的に在任期間が長いことを評価する仕組みであるがゆえに、その役職に長く居座ることを助長する制度設計となっている。もちろん、長く務めることの価値を全く否定はしない。現場で地道に活動することに敬意を払う。
しかし、社会経済の変化が圧倒的に早く不透明になってきている中で、トップ層に近いほど、適切に自ら出処進退を判断し後進に道を譲っていく、世代交代を促していくということこそが、本当の世のなかに対する貢献、とはいえないだろうか。

改革提案
 ①民間人を7割程度にする。
公職としての貢献も大切だが、日本の価値を生み出して稼いでいる民間のかた、日本の食を支えている農業漁業のかた、日本の地域社会をボランティアのかたちで支えている町内会長、PTA会長、商店街会長などをより表彰するなどして、民間の社会貢献をこそもっと称え、社会を活性化していくべきだと思う。
②15段階の等級区別を廃止する。
 概ねの受章者は、それぞれの立場で必死に頑張ってきたのだろうだから、就いていた役職や年数の長さで貢献を測ること自体がナンセンスである。職業人生において、誰しも成功もあれば失敗もある。内閣総理大臣であってもそれぞれ功罪もある。社長だから功績があるとは限らない(業績をあげたからといってそれが社長の努力に起因するとは限らない)。ブラックボックスの中で決まるようなものであれば、いっそランクなど廃止したほうが、シンプルかつ、社会のあまねく貢献を称えることができると思う。

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