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穴_11月11日真偽日記
人を呪わば穴二つ。
なら神様を呪った場合は、天から見守っているとかいう神様も、穴に入ってくれるだろうか。
「ツクシ、一緒に帰ろ」
下駄箱で靴を履き替えていると背後からそんな声がした。
振り向けば先生に睨まれている明るい髪色に、負けず劣らず明るい笑顔を浮かべたサヤが立っていた。
「おー、いいね」
私もニッと笑えば、サヤは「へへ、やったぜ」と言って並んでくる。
「珍しい。今日早いんだ?」
「そね。大会も終わったし、ちょっと休憩~みたいな?」
「そっか」
私達は並んで歩き出す。
いつもどおり部活の話や、宿題の話、友達の話なんかで盛り上がる。話題は次々に転がって留まるところを知らない。
「あ、そういえばさ」
さも今思い出しました、みたいな態度で切り出す。
「今度の土曜、冬服見たいんだけど。暇してんならどう?」
「土曜、土曜ってなんかあったような気が……っあー!ごめん!その日は予定ある!」
「えー、なにそれ。また男かよー」
「そそ。ピッピと久々デートなのだ」
サヤは両手の前で手を合わせ、ぺろっと舌を出す。そして彼氏の話題になるとパッと顔を輝かせた。
今の彼氏は他校の爽やかイケメンのナントカくん。名前は覚えてない。覚える気もしない。覚えてよ、と言ってくるサヤが面白いから。
「ちぇー、じゃあ他の奴誘うかなー」
「矢島とかどう?今フリーらしいよ」
「あいつヤバいんだって。デートにお母さん着いてくるらしいよ」
「嘘、やーばっ」
振られたことは引きずらない。むしろその話題にしたくないから引き出しにしまっていたストックをいくつも取り出す。
その度にコロコロ表情を変えるサヤを見るのが楽しくて、これ以上ないくらい幸せな気持ちになる。
けれど、そのささやかな幸せは脆くも儚く崩れさる。
「おわ、ピッピからだ」
「なんて?」
「今日暇してるから遊ぼって。えーやば、どうしよ、今日私メイクノリ悪くない?」
「サヤはいつだって可愛いしいけっしょ」
「他人事だと思ってぇ〜!」
本心だよ。それを口に出すことはなかった。
前髪を気にしてそわそわし出すサヤの背中をぽんと押す。親友なんだから応援するのは当然だ。心から思ってないのはこっちの方。
「お邪魔な私は帰るから、今度感想聞かせてよ」
「え、一緒にいてくれてもいいのに」
「勘弁。胸焼けするって」
肩を竦めてサヤから離れる。
あーあ、いつもこうだ。彼女に笑っていてほしい気持ちは私だって負けていないのに、彼氏とかいうやつに負けるのだ。
……私が男だったら。
考えても意味のないことだ。
誰にもぶつけられない怒りを呪いに変えて天の神様に八つ当たりをする。
人を呪わば穴二つ。
神様が穴に入っている様子を想像したら、少しだけ溜飲が下がる気がした。
…
靴下に穴が空いていた。
つま先が、なんて可愛いものではなく、かかとに布がなかったのだ。会議中に発覚して気が気でなかった。
履く時に気づけなかった私の落ち度とはいえ、靴下サイドからももう少し声を上げてほしいところだ。
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