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赤くて熱い_10月27日真偽日記

「はいっ、オッケーです! お疲れ様でした-!」

撮影スタジオに響くスタッフの声に浮かべていた笑顔のまま頷いた。それだけで場の空気がどよめくほどに、彼女は艶やかで目を惹く容姿をしていた。
背中に流れる澄んだ冬の夜空のように煌めく髪、ぱっちりとしたアーモンド型の瞳、スッと通った鼻筋、陶器のように滑らかな肌には顔のパーツが完璧なバランスで配置されている。

人々の理想を詰め込んだ彼女は今やどの媒体でも見ない日はない、あらゆるメディアから引っ張りだこのマルチプレイヤー『ユヅキ』だ。見目よし、歌よし、ダンスよし、喋りよし、演技よしと多岐にわたる才能をあわせ持ったカリスマ的存在として名を馳せている。

「リサさん」

少しの間視線をさ迷わせていたが、ややハスキーな声が形のいい唇からこぼれ落ちた。視線の先にはタオルや鞄を抱えた女性が立っている。

「お疲れさま、ユヅキ」

ひらひらと手を振るマネージャーのリサの言葉にゆるりと頬を緩め、その手からタオルを受け取った。
周囲に挨拶をするリサに倣いつつスタジオを出る。

ユヅキに声を掛けようとする共演者やスタッフなどをバッサバッサと切り伏せていく様子はいつ見ても爽快だ。
敏腕マネージャーのおかげでユヅキの私生活は厳重に守られ謎に包まれている。

「ねえリサさん、お願いがあるんだけど」

リサの用意したいつもの車に乗り込んでから声を掛ける。バックミラー越しに視線が交差する。ニッと快活な笑みが浮かんでいた。

「そろそろだと思って、バッチリ用意してあるよ」
「ふふ、流石リサさん」

彼女たちを乗せた車は流れていき、やがてセキュリティの堅牢なマンションに辿り着く。

「準備するからちょっと待っててね」
「うん」

キッチンに立つリサの背を眺めてから、ユヅキもスキンケアに取りかかる。
それからしばらくして、美味しそうなにおいが漂い始める。

「お待たせ~。今日はスンドゥブチゲ鍋にしてみました」

ぐつぐつと煮立った鍋が慎重に運び込まれてくる。鍋の中を覗き込めば、湯気で目が痛くなるほどに赤く染まっていた。

「美味しそう。いただきます」

ほっそりした手を合わせ箸を持つ。邪魔になる髪は既に後ろ手にくくってある。あとはこれを存分に味わうだけだ。
火傷しないよう息を吹きかけてから一口。燃えるような辛さの後に旨味が押し寄せてくる。はふはふと口の中で転がしてから飲み込めば、体の芯から熱くなるのを感じる。

食べ進め、ほう、と息を吐いてからこてんと首を傾げた。

「……リサさん、腕、あげた?」
「そりゃあ大事なユズの可愛い頼みだもの。全力で対応しなくちゃね」

疲れたときに好物である辛いものが食べたい。
それがユヅキ……もとい、本名をユズという人間のささやかな望みだった。

「その分、仕事で返すね」
「今までのでも十分すぎるくらいだけど、せっかくだから楽しみにしとこうかしら」

周囲からの過度な期待とは違い、軽く言ってのけるリサの言葉は好きだった。
彼女と、彼女のご飯のためならば、どこまででも頑張れる気がした。

その後、英気を養ったユヅキは世界に羽ばたく大スターとなるのだが、それはまた別のお話である。


辛い食べ物が好きだ。食べると美味さと辛さに脳も舌もヒリヒリするところだとか、次第に体が火照っていく感じが堪らない。激辛、よりは旨辛程度だとなお嬉しい。

その点で言うとスーパーで買った「純豆腐スンドゥブチゲ」がしっかりした辛さと美味さを両立していて美味しかった。塊の豆腐が崩れていくところも面白い。

ついでに復刻の辛ダブチを食べた。初めて食べた時より辛くない気もしたが、ハラペーニョの感じがちょうど良くて美味しい。期間中はぜひ沢山食べたいものだ。

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