「大大福」 はらまさかず

 学校の門の前に、太った猫がねそべっています。
 大福です。
 最近、子どもたちがみんな、大福を見ると、
 「大福、もうすぐだ」
 「大福、がんばれよ」
 といいます。大福が、『福』の字を書こうと頑張っていることを知っているからです。
 でも、大福は知らんぷり。
 もっちゃんが来た時だけ、起き上がり、いっしょに教室に入ります。
 教室で、大福は毎日、『福』の字の『ネ』の部分を練習します。しかし、何度やってもできません。
 もっちゃんが、大福の手をとって、書いてあげます。
 そうするとできるのですが、ひとりではやっぱり書けないのです。
 大福はいらいらして、ツメで紙をびりびりにしようとしました。
 でも、やめました。
 もっちゃんに悪いなと思ったからです。
 そして、もう一度、書いてみます。
 一つ一つ、ゆっくりと。
 ネコのネ、一、口、田んぼの田。
 
 教室のみんなが、いっせいに拍手をしました。
 先生も拍手をしました。
 もっちゃんが、大福をぎゅっと抱きしめました。
 「大福、ねこで初だよ!」
 大福の目の前には、
 大きくて、元気な『福』という字がありました。
 大福は
 ニャーーーーオ
 と、大きな声でなきました。
 そして、『福』の字の上に、大きく『大』と書きました。

(作者のことば)
102話、105話、110話と続いてきた大福のお話も一応これで完結です。

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