「金魚のマスク」 はらまさかず

 風鈴の音に誘われて歩いていくと、そこにはお店がありました。入口に『夏用マスク入りました』と、書いてあります。
 店から浴衣の女の子とお母さんが出てきました。
 二人とも、あざやかなマスクをつけています。金魚の柄のマスクです。なんとなく見ていると、
 「あれっ」
 マスクの金魚が動いたのです。まるで本物のように。
 ぼくは店に入って、
 「マスク、ください」
 といいました。
 出てきたのは、金魚のマスク。
 ほんとうに、生きた金魚が泳いでいます。
 マスクはガラス製でしょうか。でも、そしたら、どうやって息をすればいいんだろう。
 ぼくは、おそるおそるマスクをつけてみました。すると。
 それは、ふしぎなつけ心地。ガラス製ではないけど、なんだかわからない。水をそのままつけている感じ。ひんやりと、気持ちいい。金魚が口の上を通るたび、ぴくぴくっとして、思わずふふふってわらってしまいます。
 「マスクは一日しかもちませんから」
 店のおねえさんがいいました。
 「一日したら、なかの金魚はどうなるんですか」
 「ホオズキになります」

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