「夜、目をとじると」 はらまさかず

喫茶ギンガは、夜、いつ行っても開いています。まるで、夢のなかの、本当にはないお店のよう。
「いらっしゃい」
お店に入ると、ゆっくりと動く銀河の模型がむかえてくれます。
「はい。おつかれ」
マスターが出してくれたのは、カフェオレと、
「あっ、これ、中村のチーズあられ?」
「正解」
「なつかしいなあ」

「ねえマスター、夜、ふとんのなかで目をとじると何が見える?」
「子どもの時、ねてた部屋かなあ」
「あっ、おんなじ。で、隣には誰がいる?」
「妹とおふくろ。家を出るまで、いっしょの部屋でねてたから」
「ぼくは、おやじ。あの頃は、自分の部屋がほしくてさ。でも、今は、目をとじて、隣でおやじがねてる気がするとうれしい。いびきまできこえてくるよ」
「ぼくも、妹の歯ぎしりがきこえてくる」
「一人でも、一人じゃないって、いいねえ」
と、ぼく。
「お金持ちに生まれなくてよかった」
と、マスター。
薄暗い店のなかで、ぼくとマスターは目をあけると、ふふふとわらいました。
(喫茶ギンガ 第4話)

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