「年代物のグラス」 はらまさかず

 夜、喫茶ギンガに行くと、マスターが、
 「久しぶりに、やる?」
と、きいてきました。
 「いいねえ」
 ぼくが言うと、マスターは楽しそうに、
 「どれにしようかな」
と、棚を見ました。そして、グラスを一つえらびます。
 
 サイダーの栓を抜き、トクトクトクとグラスに注ぎます。
 シュワーッ、シュワーッ
 シュワッ、シュワッ、
 シュルルルル、シュルルル、ルルルル
 りりりりり
 炭酸のはじける音がグラスとに共鳴して、いつのまにか、あたりはセミの鳴き声。
 あれは、そう。みんなで自転車に乗って、水泳の大会に行った日。うんうん。ぼくは、水泳部だった中学生のころを思い出していました。

 「1986年!」
 ぼくが言うと、
 「正解! 
 次は、どの夏にしようかなあ」
 マスターが言いました。
(喫茶ギンガ 第3話)

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