死にたい夜に効く話【2冊目】『一〇三歳になってわかったこと』篠田桃紅著(幻冬舎)

自分がおじいちゃんおばあちゃんになった時の姿を想像できる人ってどれくらいいるんだろう。
気持ちに余裕がなかった時期は、何十年も先どころか、明日のことすら想像つかなかった。まして、自分が100歳を超えた姿なんて考えたこともない。


初めて桃紅さんをテレビで知った時、びっくりした。
100歳を超えていて、「おばあちゃん」って呼び方がこんなに似合わない人がいるなんて。
「かっこいい女性」これに尽きる。

「いい歳して」「この歳じゃ手遅れ」
桃紅さんを前にしたら、そんなセリフはナンセンスだ。

篠田桃紅さんは世界的美術家。
大正時代に生まれ、2021年に亡くなられた。
結婚するのが当たり前の時代に書道で身を立て、やがて、墨による抽象表現を開拓。
43歳の時に渡米し、世界的評価を得ることになる。

そして、書に専念しているうちに、私はどんどん深みにはまり、次第に、文字は、こう書かなければならない、という決まりごとに、窮屈さを覚えるようになりました。
たとえば、川という字には、タテ三本の線を引くという決まりごとがあります。しかし、私は、川を三本ではなく、無数の線で表したくなったのです。あるいは長い一本の線で、川を表したい。

篠田桃紅『一○三歳になってわかったこと : 人生は一人でも面白い』幻冬舎、2017年、pp.108-109。


これが当たり前なんだからと、常識や価値観を押し付けてくる世の中。
まして当時は、今以上に縛りの多い時代だっただろう。

それは女性が結婚しないで一人で生きていくことに対しても、既存の枠から飛び出した芸術作品を生み出すことに対しても。

でも彼女は「あら、そうですか」って感じで、颯爽と自分のやりたい方へ迷いなく向かった。

どこまでも「自然体」なのだ。
自分がそうしたいからそうしている。

ですから、私の場合は、こうなりたい、と目標を掲げて、それに向かって精進する、という生き方ではありませんでした。自由を求める私の心が、私の道をつくりました。すべては私の心が求めて、今の私がいます。

同書、p.109。

今、わたしは自分の心のままに、生きられているだろうか。

正直、未だに自分がおばあちゃんになった時の想像はつかない。
だけど、桃紅さんのように、最期までかっこいい人間でありたいとは思うのだ。


(2023年8月28日)