見出し画像

死にたい夜に効く話【7冊目】『驚愕!竹島水族館ドタバタ復活記』小林龍二著

少年漫画的カタルシスを求めにいきたくなるときだってある。

弱者的ポジションの主人公が、成長して、這い上がり、強敵を打ち破っていく様は、王道でありながらいつだってワクワクする。

今回は、そんな熱さとシュールさを兼ね備えたノンフィクション、小林龍二さんの『驚愕!竹島水族館ドタバタ復活記』いってみましょう。



愛知県蒲郡市にある竹島水族館。
歴史はあるけど、規模が小さく、外観は古い。
お客さんは全然来ない。お金がなくて理想の展示もできない。
そしてついに廃館の危機。

そんな水族館を「何とかしよう!」と周りから浮いてもへこたれず、さまざまな策を仕掛けた著者が人気水族館にまで押し上げていく。

竹島水族館のことは、テレビのニュースで何度も見た。

芸をしないカピバラショーのニュースが流れた時は爆笑した。

この魚は食べたら美味しい・不味いなど、水族館業界の「タブー」に切り込んだ、クセのある手書きの解説を、もう知らない人はいないんじゃなかろうか。

(そういえば子どもの頃、水族館へ連れて行ってもらった時、水槽の前で隣にいた家族のお父さんが「夕飯はアジがいいな〜」と言っていたのをやけに覚えている)

その他にも本では、これまでに仕掛けた数々の取り組みが紹介されている。

ひしめきあう大量のウツボオンリーの
「ウツボどっさりキモチワルワル水槽」

気持ち悪っ

でもたぶん、薄目でチラチラ見てしまう。

リアルなオオグソクムシのパッケージのお土産
「超グソクムシ煎餅」

気持ち悪っ

でもたぶん、買ってしまう。

なんとも、人間の本能なのか好奇心なのかわからないけど、上手いところを突いてくる。


そこかしこのエピソードは、どうにもシュールな面白さがあって、じわじわきた。

資金難のため、業者や観賞魚店から購入せず、自分たちで獲ってきて展示する。まさかの自給自足。

他の水族館へ行くと、見ているポイントが普通のお客さんと違うので、動きが不審者化してそこの職員にバレる。

カピバラを迎えて集客を狙うも、思っていたよりお客さんの反応が悪く、「動かないカピバラを動かすにはどうしたらいいのか」と頭を悩ます。

そして印象深かったのは、
著者が年間入館者数の目標を16万人と定めた時のこと。

「16万人なんて、そりゃ無理だよ」
当時の館長は笑って言いました。そういうことを言われるとボクは逆に燃えるタイプです。
コイツを「すみませんでした」と謝らせてやろう。見ておれよ。「無理だ」なんて言ったことを後悔させてやる!
「16万人に達しなかったら全員坊主にしよう!」

小林龍二『驚愕!竹島水族館ドタバタ復活記』風媒社、2020年、pp.55-56


なんだ、学生時代の部活の顧問に対するわたしの態度とそっくりじゃないか。

妙な懐かしさを感じてしまう。いや、坊主宣言はさすがになかったけど。

「くそっ見返してやる!」
って、悔しさとか恨みとか、なんかこう、ネガティブな感情渦巻いている方が、とんでもないエネルギーが出たな、と今更ながら思う。

個人的にアニメ化してほしい本に入った。
爽やかな読後感を味わえる。
生き物が好きっていう人には、ぜひ薦めたい。




今夜は刺身が食べたいな。

(2023年9月27日)

〈参考文献〉
小林龍二『驚愕!竹島水族館ドタバタ復活記』風媒社、2020年