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言葉は嘘をつく、ただ視ろ!


『あさひなぐ』全34巻
こざき亜衣
小学館

少し前から、こざき亜衣の漫画『あさひなぐ』に没頭している。
現在29巻まで刊行されているのを、おそらく6〜7巡くらいは読んでいるから、200冊近い分量を1ヶ月ほどで読みまくっている計算である。
高校の薙刀部の話。
薙刀部って、今まで撮影の仕事をしていて、卒業アルバムのクラブ撮影でもまだ1校しかお目にかかったことがないマイナースポーツなのだが、それでもそのたった1校の薙刀部の練習風景で、かっこよさに心打たれたことを覚えている。
この漫画にドハマリする下地はあったわけだ。

しかし、ものすごく良くできた漫画です『あさひなぐ』。
(イントネーションは「芦田愛菜」の抑揚で「あさひなぐ」だそう)

ただのスポ根漫画ではない。
薙刀は高校のクラブスポーツであると同時に武道でもあるわけだから、スポ根路線である一定の熟度に達したあとにも武道的深度に掘り下げる余地がある。
ライバル一堂寧々との壮絶な名勝負が描かれる20巻〜21巻のクライマックス(最高やで!)を過ぎ、あとは消化試合的な連載になるかと思いきや、いやいやなかなか。
すごいよ、こざき亜衣。

25巻、薙刀教士の尼僧・寿慶のもとで合宿に励む中、四日間一切喋ってはいけないという厳命を受ける薙刀部員たち。
詳しいストーリーやシチュエーションの説明はしないけれど、ことばが使えず苦しむ部員たちに、寿慶が言った

「自分の心を言葉で外に出すな! 心の純度を保ちなさい!!」

というセリフ。
意志の純度を保て。薙刀で語れ。言葉は嘘をつく。ただ視ろ。

いきなり薙刀漫画からずどーんとこちら側に紙のページを飛び越えてやってきた。
言葉は嘘をつく、というのは、そのとおりで、その「言葉」に翻弄されて人は生きている。
意識とは言葉である。言葉の累積でできた意識はいとも簡単に嘘にまみれる。

心の純度を保ちなさい。ただ視ろ。

うおお。これは写真論の本なのかしら。
これからあざとい写真を撮ってしまったあとに、いちいち寿慶の声が聞こえてきそう。

・・・・・

怪我に苦しむエース宮路に、情け容赦なく悪罵を放つ闇キャラ島田、とか。
練習量で築き上げてきた旭(主人公)の薙刀世界を引き算一発でさらっていく河丸摂とか。
一堂寧々戦が終わったあとも、まだまだ目が離せないのです。
すごいのです。

(シミルボン 2019.3)

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