Netflix版「新聞記者」★★★☆☆

Twitterで「新聞記者」についてつぶやいたところ、なんか絶賛する人と鬼のように否定する人の場外乱闘がリプライ欄で繰り広げられて大変だったので、感想をここにおいておきます。
完全に個人の感想なので怒らないでくださいませ。

良かった点 → 悪かった点 → 総括で。(一部ネタバレを含みます)

良かった点

選んだテーマ
「平凡な家庭が不正の片棒を担いで悲劇に陥り、ジャーナリストと、良心を持った官僚が国家の不正に立ち向かう」というシンプルなテーマを、ある程度(後述のように問題点がたくさんありますが)事実に則って、かつこの豪華キャストで実現して、エンタメとして見れるものに仕上げたという点。
新聞ものは「スポットライト 世紀のスクープ」や「ペンタゴン・ペーパーズ」など、評価の高いものも沢山あるんですよね。
メディアの危機は同時代性を持っていて、テーマとしては充分世界でも戦えるものだと思います。

吉岡秀隆さん
このドラマで一番素晴らしかったのは吉岡秀隆さんでしょうね。とにかく実直そうで。公園で酒飲む感じとか。狂気を含んだシャワーのところの演出とか。追い詰められ方含めて、素晴らしい演技。妻を演じる寺島しのぶさんも素晴らしい。

田口トモロヲさん(吉岡さんの上司)
善と悪が入り混じったようなキャラクターで良かったです。

小野花梨さん(横浜流星さんの女友だち)
いいですよねー。非常に自然で良かった。映画が締まりました。

国会がそれっぽい
国会が割とそれっぽいですよね。野次とか。不自然さがない。この世界にTwitterがあったら盛り上がってそう。

撮影全般
ショッキングなシーンでのライティングの上手さとか、シュレッダーに放り込むときの感じとか、効果音の使い方も結構好き。全般、ガチャガチャしてなくて静かなドラマですよね。

東京新聞のロケーション
窓の外から見えるあの感じ。絵になりますよね。光の差し込まない内調と新聞社の対比。森友は朝日大阪本社が最初に報じたんだから、築地か中之島でやるほうが誠実かもですが。

悪かった点

セリフ
日本ドラマあるあるですが、セリフが全般的に説明過多で説教臭い。絵で見せてほしいところも全部語っちゃうのが……。販売書の会話もひどいし、大学生の会話も不自然。
「ネットなんてフェイクニュースばっかだろ」とか「○○商事なんて今の政権ベッタリなんだからさ」みたいな。なんかこう、おじさん感が。
だいたい、意識高い大学生ほどひろゆきとか見てるからむしろ新聞バカにしてそう(偏見)。

新聞のゴリ押し感
「スポットライト 世紀のスクープ」の中には「新聞は何ができていたのか?」というキッチリした自己批判があるんですよね。
新聞は正義、ネットは悪、みたいな一面的な感じがどうも鼻につきます。遺族に群がるマスコミとか、嫌な上司、とかも書かれてたけどちょっと弱い。悪そうなの週刊誌記者だったし。

史実との整合性
どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのかわからない。ノンフィクションとして書くなら、事実解明の経緯とかはもうちょっと現実に合わせて置かないと駄目なのでは。

一面的なキャラクター
悪役はいかにも悪役、善人はひたすら無垢な善人という描写の単純さ。
ユースケ・サンタマリアが自宅で一息ついて、思わずワイドショーを見て動揺して消してしまうとか、「あれ、実は良心の呵責を……?」みたいな描写とか、そういうのほしいですよね。
一面的に書くならもっと大物感がほしい。単にニヤニヤしてるだけだと、サイコパスの小物に見えてしまう。

米倉涼子さん
米倉涼子さんは出来る人に見え過ぎちゃうのかも。失敗とかしなそうだし。
シム・ウンギョンさんが本当にいい役者だからというのもあると思うんですが。映画版の松坂桃李さんとのバディ感よかったなぁ。ストーリーはめちゃくちゃでしたが。

ドラマとしての引きのなさ
「謎」がないんですよね。割と最初から全部見せちゃってるから、ドラマとしての引きがないんだよな……最初に明かされないキャラクター同士の意外なつながりとか、そのへんはまあ「引き」ではありますが、弱い。

政治家の不在
映画版でも思ったけど政治家が出ないんですよね。政府与党も野党も。そこが不自然。市民団体もほぼ出ない。
実際の森友では、新聞記者は正直脇役だったわけで、政治を書くならもっと政治家は出すべきだと思いました。

内調の謎描写
内調のなんかグラフが写ってる謎のモニターは何だろう(カチカチカチターン!)。映画版のときも思ったけど。
内調が暗すぎてみんな目が悪くなりそう。この世界の内調は気象庁並みに予算がないのだろうか。世知辛いですね。

BGMの使い方
嫌いというほどではないけど、静かなところから徐々にbgmが盛り上がってそこでフェードアウトみたいな日本映画あるあるが多用されてた気がします。あのとりあえずピアノで泣かせようとする感。

(まんまこの感じの演出が多かった)

総括

総合して言うと、ガーディアンとジャパンタイムズの「★★★☆☆」という評価やiMDbの7.1という評価は割と妥当で、「普遍的なテーマを扱っているが、脚本や演出が劣っているのでヒットにはならない」ということになるのかな。

中途半端ですよね。ノンフィクションならもっと徹底するべきだったし。映画版よりはマシとはいえ。
その限界を踏まえた上で、完全にフィクションにするのではなくノンフィクションに近づけたかったという意図はわかるのですが。

留意していきたいのが、この作品に批判的な人の中で少なくない人が森友問題を真剣に追ってきた人たちであることも事実です。
実際の事件を題材にする以上、やはり色んな意味で敬意を欠いていたという批判は十分理解できます。

見るべきかどうか

悪いところのほうが長く書いてるけど、駄作ではないし、十分楽しめるクオリティにはなってると個人的には思います。
時事問題知らない人が、森友の話とかを知らずに豪華キャストに引かれて見るほうが意外な展開を楽しめるのかも。

それにしても、米倉涼子さんが望月さん(的な人)を演じるってすごい時代だ。Netflixだからチャレンジ出来たのは間違いないですよね。
米倉さんがいるとものすごく「地上派ドラマ」感が出ますが笑

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