山口くん、山口容疑者、山口氏

 山口くん、と呼びたいのだけど、山口容疑者かあ。やるせないので山口氏、と呼ぶことにします。

 昨日、2020年9月22日、元TOKIOメンバーの山口達也氏が酒気帯び運転でバイクの追突事故を起こし、二度目の逮捕となりました。

 私の大学時代の友人たちには、ジャニーズファンが多くいました。電気グルーヴや筋肉少女帯を愛聴しているような私となぜか親しくなり、現在でも仲良しです。

 卒業してから静岡市に帰って書店でアルバイトをしていた当時の私が、電話のなかで、名古屋に行ったことがないと話すと、「こんどTOKIOのライブがあるからおいでよ!チケットとってあげる」と言ってくれて、長瀬智也ファン、Kinki剛ファンの友人と三人で名古屋一泊の旅行が決定しました。

 2004年2月、「アンビシャスツアー」名古屋国際展示場。午後公演。会場に着くと、午前公演のお客さんと入れ替えの時間。当時28歳の私たちと同じぐらいの世代の女性たちが中心で、もっと年上のママさん世代がお子さんを連れて来ているというのも少なくなかった。十代は少ない、という客層。

 友人は、「他のジャニーズは❝コンサート❞だけど、TOKIOだけは❝ライブ❞。だから、うちわを持った人がいないでしょう」なるほど。

 満場の開演となり、特別にファンではない私にもわかるヒット曲が多く演奏され、おもしろく時間が過ごせました。いったん退場し、アンコール。いつも楽器を持っているメンバーがダンスを披露しました。これが見ごたえがあり、アクロバットも。友人によると、実は全員がバック転ができるのだとか。ソロパートもあり、特に城嶋茂リーダーの謎キャラ「ジョージ・マシゲール」は、メキシコ調のふざけたコスプレながらキレッキレのダンスの腕前は素晴らしいものでした。

 ライブを生で観ていると、その後、テレビで姿を見るのもいっそう親しみがわくのですが、2018年4月、山口達也氏が未成年飲酒および強制わいせつで逮捕。うそでしょー。

 あんなに仲が良さそうなメンバーだったのに。健康的なダンスを見せてくれていたのに。生のライブで、メンバーだけでなく、たくさんのファンたちの顔も見た。やるせないよ。

 その翌月、集英社クリエイティブ『女子という呪い』出版記念イベントで神楽坂の会場へ行くと、著者の雨宮処凛さんとともに漫画家の田房永子さん、そしてフェミニストの北原みのりさんが登壇していて、山口氏の問題にも触れていた。北原さんは1976年生まれの私より少し年上で、「山口くん、て、❝くん❞て何。もう四十代でしょう?恋愛の対象が十代の女の子ってどうして?そもそも少年の心だとか無邪気さだとか、そういうものをその年代の男性に背負わせる演出が間違ってる。私が子どもの頃の芸能人で四十代っていったら、ダークダックスでしたよ」ダークダックス…そうか…無人島で遊んでいる場合ではないな…。

 そんな感じで東京やらなにやら遠出をする機会が多かったその季節、新幹線を降りて浜松駅に21時ごろ到着、22時ぐらいの最終のバスを待っていました。

 ロータリー中央の待合室。肌寒い夜で、先客のグループがいました。

 バスを待っている風ではない、六十代ぐらい、五人組、うち女性一人、口調・方言からすると地元民、荷物が少ないのでホームがレスなわけではなく、たぶん家にいても居場所がないとか一人暮らしかなにかでファミリーがレスな雰囲気。手に持っているのは缶コーヒー。

 おしゃべりしているのは他愛ない噂話。ピンク女がどうとか。ピンクの服をいつも着ているいかがわしい女性がこの街にいて、ありゃあけっこう歳がいってるら?俺より上じゃあねえか、金とるんだら?「スカートなんか穿いて!」中のひとりの女性がしきりにスカート!スカート!と言っていて、この街ではたしかにおばちゃんおばあちゃんはズボンばっかり穿いているけどスカートやばいんかい…などとぼんやりと聞いていました。

 話題は変わって「山口ってなんだあいつは。ジャニーズだろ?ハンサムでモテるんだろ?あんなことしなくてもええだに」「山口達也?あの事件なにやった?」事件の概要は掴んでいないまま話題にしている様子。「あれはなんだね。おかしちゃったの?」女性が言うないなや、リーダー格とみられるおじちゃんがすかさず「そんなことはしてねえよ!あれはな、く ち び る を 奪 っ ちゃったんだよ!」

 唇を奪う…久しぶりに聞いたなそんな甘酸っぱい言葉。昭和か明治か大正か。

 最終バスが近づいて、乗り場に移動する。「唇を奪う」という言い回しを用いる田舎のおじちゃんの純情、やっと見つけたロータリーの待合室という居場所、缶コーヒーひとつだけのつつましさ、これからひとりぼっちの家に帰るのだろうか、そのような暮らしは、もしかしたら心がスレていないからこそそうなっちゃうのか??山口くん、むずかしいねえ。

 山口達也氏のことを想うたびに私はこんなあれこれを思い出すのです。

 


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