![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/16397096/rectangle_large_type_2_9e6e2f6d48630c57548efd96a45d107c.jpeg?width=1200)
観察者
鈍色のどんよりとした空の色、乾いた風が前を開いたコートのなかにすべりこんできて、「ああ、いい感じだ」と思った。降り込めた雨があたりを鬱蒼とさせ、濡れたアスファルトがクルマのライトを反射すると、弱い視力が拓く世界はたちまちきらきらと夢模様となって輝く。
踏みしだかれてすっかり水分をなくし、石畳と同化していた楓の落葉が、冷たい雨粒を身の内に取り込んでインスタントに再生される。
暗くなればなるほどに、雨の勢いが増せば増すほどに、何故か都会の晩秋は存在感を放つ。タクシーの後部座席にどっかりと身をしずめて、コートのポケットに両手を突っ込んだまま、完全に安全な場所から通り過ぎる季節を眺めている。
ワイパーが雨粒を払う動作音がやむつかの間、一瞬だけ空間を沈黙が支配する。生まれたばかりの夜が、したたるようにきらめく世界を包囲した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?