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観察者

鈍色のどんよりとした空の色、乾いた風が前を開いたコートのなかにすべりこんできて、「ああ、いい感じだ」と思った。降り込めた雨があたりを鬱蒼とさせ、濡れたアスファルトがクルマのライトを反射すると、弱い視力が拓く世界はたちまちきらきらと夢模様となって輝く。

踏みしだかれてすっかり水分をなくし、石畳と同化していた楓の落葉が、冷たい雨粒を身の内に取り込んでインスタントに再生される。

暗くなればなるほどに、雨の勢いが増せば増すほどに、何故か都会の晩秋は存在感を放つ。タクシーの後部座席にどっかりと身をしずめて、コートのポケットに両手を突っ込んだまま、完全に安全な場所から通り過ぎる季節を眺めている。

ワイパーが雨粒を払う動作音がやむつかの間、一瞬だけ空間を沈黙が支配する。生まれたばかりの夜が、したたるようにきらめく世界を包囲した。

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