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トリガー

「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもんで。だって今の自分の心の内側で葛藤するものどもって、10代の頃のそれと一体何が違うというの。注意深く観察すれば、年相応に身に着けた分別とか、あるいは相応に身に着けるしかなかった諦念とかが、外側を覆う保護膜にはなっているけれど、思想の根本が大きく変わったなんてことはないんじゃないかしら。

だからいつまでたっても愚かなんだ。

愚かであることに飽いて、改心したような気持ちで数年を過ごしたけれど、常にわたしを最大にドライブするトリガーが引かれてしまったらもうだめなのだ。そのくらいには、十分愚かなのだ。

愚かでいることを選んでしまうのは、単に心の弱さというだけでない気がしている。人間性の問題なのかもしれぬ。それほどに下劣なサガを生きているのかもしれぬ。そして愚かでいることはなぜかくも甘美なのだろう!

わたしが愚かになってしまう、あのトリガーを引けるのはあの人だけだ。それ以外のあらゆることに、わたしは堅牢な城塞を築いて強く意思を貫けるのに。数年を懸けて構築したまっとうであろうとする何もかもを、一瞬で瓦解させてしまう「あの人」という宿命を、わたしはどうしたらいいのかもうわからないし、なんで抵抗しなくてはならないのかがもうわからない。

こんなうららかな春の一日であっても、人類史に残る危機を生きている今であっても、愚かたる一個人を今日も生きるわけであって。

photo by Thomas Leuthard

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