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うず高く雪が積もった地面にくっきり足跡を足跡を付けて、風もないのに帽子の耳垂れを顎の下にきっと結んで、少年は森の奥へと向かった。冬の木々は半ば雪に埋もれてぼんやり並んでいる。枯れた枝枝の隙間から傾きかけた太陽の黄色い光が差している。 夏にを果実を取る時も、秋に茸を取る時も、お姉ちゃんに「絶対に行っちゃだめよ、魔女に食べられちゃう」と言われたその先へ。 村の大人が言うには、森の奥には花咲乱るる常春の庭園があるとかないとか。魔女が居るとか居ないとか。その常春の庭園に行き、
CPUは眠らない。かつて人間だったころの夢を見たのは、ぶっ壊れたSSDのせいだ。 惜しみなく燃料を食わせた暖房で温めたリビングで(温熱感知器もとっくにイカレちまった)、初等学校に通い始めた娘が絵日記をしたためたノートを両手いっぱいに広げている。 「パパ、みて! かいたくちのおうまさん! あたし、この子となにしたとおもう?」 「乗馬かな? 餌やりかな? ヒントはあるかい」 「えー、どうしようかなあ」 キッチンからミルク煮のいい匂いが漂う(俺に微粒子分析器は搭載されてい
「防風林の向こうのお屋敷に、お化けが出るよ」 ミカちゃんちでスマブラした帰り道でユウリちゃんがそう呟いた。隆明(たかあき)は『おやつにしなさい』とお母さんから持たされた茹でトウキビを齧る手を止めた。 「それって、あれ?」トウキビの穂先でユウリちゃんちの畑の先に聳えるカラマツの植え込みを指す。植え込みよりもっと手前、たわわに実るトウキビ畑の途中から陽炎が昇り、黒い松葉もその奥に建つ赤いサイロめいた尖塔もしっとり揺れている。 「ばっかでー、ユウリ。そんなの居るわけないじゃん
暑い。坑道に足を踏み入れた途端にむっとした熱気がルメの頬にあたった。緩く下って行くにつれてそれは顎から汗を滴らせた。持参のカンテラを巡らせれば黄色く滑らかな岩肌ばかりが目に入り、輝石の欠片も見当たらない。 「この辺は全部採り尽くしちまった」 先を進む案内人が呟いた。”木霊のエルフ"らしくツルハシを背負い、終生鋏を入れることはないという翡翠にも似た髪の間から覗く背中は、松を思わせる鱗状の樹皮に覆われているが、良く磨いたふくらはぎが艶めかしい板目を見せている。 「あの、それ