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混浴

水曜日。銭湯の湯ぶねがいつまでも大仏に占拠されているので、洗い場で仕方なく百回目のシャンプーを始めたけれどつまらない。

好んで使っていたはずだったのに、この白い花の香りにもほとほと嫌気がさしてきた。大仏が湯に浸かって七日経つ。着物をきたまま広い浴槽にむりやり納まるように胡坐をかいて、湯ぶねのふちから湯がちょろちょろともれるのを細くあけた目で見下ろして、大仏はうんともすんとも言わないので、何が楽しいのだか分からない。

「お風呂あがったところに、牛乳とか、うってるよ」

湯に浸かりたい一心で思わず言うと、大仏の目線がゆっくりとこちらに向けられた。あわてて目を逸らしてシャンプーに精を出すと、ぬっと伸ばされた金臭い指が脳天をぐりぐりと撫でてくる。
泡にまみれた長い髪が、頭頂でなめらかに渦を巻く。撫でられて、急にうっとりした。ふくらんだシャンプーの泡が背中をつたっては床に落ちて、嗅ぎ疲れた花の香りがいっそう銭湯に立ち込める。

もっと、なでて。

素直に甘えると、大仏のゆびが熱心に動いた。銅の重量に俯かされた首が、百合根をそっと裂いたときのような、めりめりとやわらかな音を立てる。近いのか遠いのか分からないところで、止め忘れたシャワーの感触。もっと。もっと。いつまでも、なでて。両腕をだらりと垂らして、のしかかる指に身をゆだねる。

もう何も分からないのに花の香りばかりがする。銭湯の清潔なタイルに摺りならされた体をゆるゆると押し流している、全て泡になったシャンプーの銘柄はたぶん二度と思い出さない。

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