【過去】あの日のわたしへ
さぁ、今夜はいつのきみへ話しかけようか。
こうして寝る前にスマートフォンの画面と向き合うのを日課にしている。
現在のわたしにこの手紙のような投稿が追いつくのはいつになるんだろうね。
いつでもいい。
急いでいない。
じゃあ、中学校に入学したて。
結構ナーバスになってるきみだ。
小学校からエスカレーター式に人間関係も一緒に持ち上がった。
そこに、『お受験』をして外部から入ってきた知らない初めましてさんもいたね。
班の中に外部からきた人もいて、
小6で経験した悪しき関係がそっくりそのまま残るわけじゃなかったから、
少しは安心したはずだ。
そして最初の間はその新鮮さを楽しめた。
きみには4歳年上の姉がいるね。
きみと入れ替わりで姉は同じ中学を卒業して高校に進学した。
友だちがじょうずにつくれるように、きみはねがった。
いつも周囲に友達がいる明るい姉が羨ましくてまぶしくて。
きみにとってのロールモデルだったんだ、そんな姉が。
家に帰って、姉が話す友だちたちとのやりとりや、おかしな話、どんなことを友だちとしてどんなことを姉が言ったり、したりしたのか。姉の友だちたちの反応はどうだったのか。
たのしいエピソードがたくさんあって、
きみはお母さんと一緒にその姉の話を楽しく聞いている。
姉は、友だちも、姉自身も、そして家に帰ればお母さんも私も楽しくさせる。
姉のように、
こうすればいいのか!
こんなふうに接すればいいのか!
きみはそう思った。
勘違いしてしまった。
あくまで姉のエピソードは姉の築いた人間関係のなかでのみ通用するんだ。
つっけんどんな物言いや、
軽口で言う「ばーか」や「あほか」
っていうのは、相手とのあいだにその言葉に悪意も他意もないという相互認識があって成り立ってるんだよ。
言われた相手も、姉が傷つけようとして言ってない、お互いの間で認められた「ノリ」ってのを共有してるんだ。
短絡的に真似をしたきみは、
未来のわたしからしても、
残念ながら間違っているよ。
私が自分自身として君をフォローするとすれば、
きみはそれほど、孤独を恐れていて、
楽しく一緒にすごせる友だちがほしくて、
その憧れの環境を持っている姉を本当に純粋に憧れていたんだよね。
短絡的に姉の真似をした結果、
きっと周りの人は「嫌なことを言われた」「無神経だ」と感じたんだろうとおもうなぁ。
実際君も感じたろ。
最初は一緒にいた子たちも、
次第に疲れていったのを。
それを決定的に感じたのは、花火大会の時じゃないかな?
たぶん、きみを好いていた吉岡くんと、
きみと吉岡くんの間と取り持つように一緒に花火大会に行った、エリちゃんと、アキくんがいたよね。
きみは、吉岡くんの気持ちに結構鈍かった。
普通なら気づいて、いい感じになるなり、興味がなければ普通に友だちとして楽しんだりできたのかな。
普通ってのが、いまの私でも分からないからなんとも言えないや、ごめんよ。
まぁとにかく、エリちゃんとアキくんの取り持った甲斐もなく、きみはとっても空気が読めないまま花火大会を終えて、
エリちゃんとアキくんには呆れられて、
ああ、あとついでに空気の読めなさに本格的にうざがられることになるんだよね。
吉岡くんも、もういいや、みたいな感じで。
いやだなぁ、こうして思い返しても、
ちょっと痛々しすぎるよ。
帰り道、なにかを自分は間違えたんだ、って感じてたよなぁ。
駅から家までの帰り道。
覚えてるよ。
でも、じゃあその何かは、
なんだったの?
エリちゃんとアキくんの呆れた顔がリフレインして、モヤモヤしたまま帰ったんだよね。
今、9年後の私がきみに言えるのは、
きみは不器用だったんだ。
あ、それは今も変わらない、ごめん。
あと、姉のようにってのに固執しすぎて、
目の前の付き合いのある同級生にきみ自身で付き合うことを忘れてたんじゃないかな。
空気を読むのは、
今も苦手だよ。
思ったことは顔に出ちゃう。反射的に。
とりあえず今夜は、
13歳の夏休みまでだ。
おやすみ。
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