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描写が鮮やかすぎて圧倒された話〜宮本輝「錦繍」〜

かおりさんへ

こんにちは。かおりさんが「クララ白書」について熱く語ってくれたので……

わたしも何かコバルト文庫で書こうと新井素子「星へ行く船」を借りてきました。


「あゆみちゃん!」「太一郎さん!」と非常に懐かしくなりました。あっという間に中高生のころにタイムスリップしたような気分になってかなり感動したんだけど、かおりさんの「クララに再会した話」のリピートにしかならないかもと思いまして……

わたしが中高生のころに読んだ本つながりで、この間BOOKOFFに行ったときに110円の棚で見つけて、思わず購入してしまった本。「往復書簡といえばこれ!」と思っていた宮本輝「錦繍」について書きたいと思います。

わたしの記憶では、この本は「中年の男女の愛憎を生々しく書いた往復書簡の本」という感じでした。まあ、合っていたといえば合っていたんだけど、そもそもの出だしから、「え?これ中年の人が書いた設定の手紙なんだっけ、50代60代?」という疑問から読み始めました。なぜ、そんな印象を受けたかというと圧倒的に文章がうますぎて素人の手紙じゃないの。ましてや年若い人の手紙じゃない。先にネタバレしておくと、この本は昭和57年に書かれた本で、戦後すぐに生まれた35歳と37歳の男女が25歳と27歳のときの出来事を振り返ってるから、違和感があるのは当然なんだけど……。令和の50代の私には到底書けません。

話がそれたけど、この本はともかく描写が美しい。蔵王のダリア園からドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトでかつての夫と思いがけず再会するんだけどね、ゴンドラの下に見える紅葉の描写が………もう鮮やかに目に浮かぶ。喫茶店の描写とかネズミの話(これはかなりグロテスク)もともかく、映像が見えるの。ああ、これは文学作品だったんだ。そんな風に思った。(アホな感想でごめん)

そして、「生きてることと死んでることは同じこと」と言い出すくらいいろいろあったふたりが新しいパートナーや子どもと再生していく話。往復書簡を送り合いながら、少しずつ過去を過去として整理して、お互いの気持ちや状況を理解しつつ、最後は一筋の光に向かってそれぞれ一歩を踏み出す結構前向きな話でした。

「星へ行く船」を読んだ時には懐かしさで心がいっぱいになったけど、「錦繍」は多感なころの自分が一体何を考えて、どう感じたのかまったく記憶がない。文学作品って、読んだ時の人生の経験値によって違う風に読めるんだろうね。だから、今読んだ感想に記憶が上書きされちゃったのかもしれない、なんてことを思いました。

中高生のころは、教科書にも文学作品がたくさん載ってたし、結構一生懸命読んでいた気がする。(覚えていない………)今読み返したらきっと違う感想を持つんだろうな。感情移入する人も主人公からお母さんとかおばあちゃんに変わってるだろうし。ちょっと意識して読んでみようかな、そんな気持ちになりました。かおりさんの記憶に残っているいわゆる文学作品は何かな。今度教えてね。

2023年10月20日
やすこより


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