書評 住野よる『青くて痛くて脆い』

2022年度「サギタリウス・レビュー 現代社会学部書評大賞」(京都産業大学)

図書部門 奨励賞作品

「「青くて痛くてもろい」という小説の中にあるメッセージ性」

清家一稀 現代社会学部現代社会学科 2年次

作品情報:住野よる『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA、2018)

 人は潜在的に、「この人はこんな人であるべきだ」とか「この場所はこんなところであるべきだ」といったように、他の人やものに勝手な期待や理想像を持ってしまっているのではないだろうか。また、そういった自分の中で作り上げた期待や理想こそが正しいと思い込んで行動してしまうこともあるだろう。この小説は、大学という青春の終わりを舞台に、そんな人の身勝手さや未熟さに気づかせてくれる。常に主人公の視点から展開されていく物語は、リアルな設定と舞台も相まって気づけば読者を主人公に憑依させ、引き込んでしまう。

 主人公の田端楓は、自分から誰かを不快にさせる機会を減らし、不快になった誰かから傷つけられる機会も減らせるだろうという考えのもと、「人に不用意に近づきすぎないことと、誰かの意見に反する意見をできるだけ口に出さないこと。」という人生のテーマを大学一年生にして決めてしまっている。そんな線引きを踏み越えてきた人物、秋好寿乃は「小学生の道徳で習ったような、聞いているこっちが恥ずかしくなってしまうような」理想論をひたすらまっすぐに追い求めようとしているような人間だ。主人公はそんな秋好と時間を共にするうちに、冒頭で書いたような理想像を当てはめてしまっていたのだろう。

 物語の終盤で、ようやく主人公以外の視点からの考え方がぶつかることによって、読者は自分本位の考え方の身勝手さに初めて気付かされ、衝撃を受ける。また、自分の中だけの理想像で、他のものの善し悪しを決めてしまっているという、ありふれた人間の未熟さに思い当たる節がないか考える。この小説は、エンターテインメント性の中にもそんなメッセージ性を持った小説だと言える。

〈審査員の評価ポイント〉
物語の説明が非常にうまくぜひ読んでみたいと思えるものだった

©現代社会学部書評コンテスト実行委員会