ねこのとうふ15 ホワイトデー
わたしはしろねこ。名前はとうふ。
きょうはホワイトデーという日らしい。ホワイトは英語で白、デーは日、白い日。つまりわたしにぴったりの日だ。
白い日の1ヶ月前つまり2月14日にはバレちゃってんデーがある。これは誰が誰かを好きなのかバレちゃう日で、バレちゃったら好きな相手に特別な何かを渡すらしい。
先月のバレちゃってんデーには、本当にわたしの気持ちがバレちゃうか確かめるために、おくださんの家に行って庭の塀の上からおくださんをちらっちらっと見ていた。
わたしの気持ちバレちゃうのかな。ちらっちらっ。
その時塀の下の道をねこのもどきさんが通りかかった。いつも通りがんもどきをくわえながら。
「とうふさん、おくださんのことが好きなのバレバレだね」がんもどきを下に置いてもどきさんが言う。
「!!!もどきさん!なんで分かっちゃたの?恥ずかしい!!!」わたしは両前足の肉球で目をおおった。
「バレちゃったんだから何かプレゼントをあげなきゃね。ふっふっふ」そう言ってもどきさんは、がんもどきをくわえ直して向こうへ行ってしまった。
バレちゃってんデーの威力てすごいなぁ。恥ずかしい。でもバレちゃったんだから仕方ない。わたしはバレちゃった時のために準備しておいたプレゼントを渡すため、塀の上から降りた。ひらり。
「ああとうふさん、そんなとこにいたの?」
「こんにちはおくださん。あの、なんかわたしバレちゃったそうなので、これ」わたしは照れながらバレちゃってんデーのプレゼントを差し出した。
「バレちゃって?ああバレンタインですね。嬉しいな。ありがとうございます」ごそごそ。おくださんが包みを開ける。
「そろばん?!これはどうして?」おくださんが驚いて聞く。
「おくださんね、少し前に背中をぽりぽりしたい時背中が長いからどうしても届かない場所があるって言ってたでしょ。このそろばんでゴシゴシすれば気持ちいいと思って。南丘小学校の算数倉庫から使わないそろばんをもらったの」
「ああそれはそれは!さっそくかいてみよう。ゴシゴシゴシゴシ、んん!いい感じです!」
おくださんが気持ち良さそうに目をつむる。そろばんがカチャカチャ鳴る。
おくださんにぴったりのバレちゃってんデーのプレゼント。喜んでくれてよかった。
「ホワイトデーにはきっとお返しをしますよ、とうふさん。いま流行りのビーントゥバー、つまり素材にこだわったもの差し上げます。ホワイトデーにはきっとまた来てくださいね」
・・・・・・・・・・・・・・・
さて、あれから一ヶ月。ホワイトデーがやってきたのだ。
おくださんは、ホワイトデーのお返しに上等な何かをくれるっていう話だったけど何なんだろう。何とかバーって言ってたわね。わたしはおくださんち塀の上を歩きながら考える。おくださんはこないだと同じように庭の近くでひなたぼっこをしている。時折私があげたそろばんで背中をかいたりしている。おくださんが背中をかく度にそろばんがカチャカチャいう。
わたしはおくださんに声をかける前にかげからちょっとの間だけ観察するのが好きだ。会った後では恥ずかしくて見つめられないから、こっそり見る。でも見るだけだと声は聞けないから、そのうちうずうずして来て声をかけてしまうけど。
「おくださん、こんにちは。お元気ですか」
「やあやあ、とうふさん。このそろばんとても気持ちがいいですよ。すごくぴったりのプレゼントをくれてありがとうございます」
「喜んでもらってわたしも嬉しい。今日はホワイトデーですね。こないだおくださんが、何かすてきな物をくれるって言ってたでしょ。それで図々しくも来ちゃった」
「いえいえ。来ていただいてありがとうございます。これを今日のためにとうふさんに取っておいたのです。どうぞ」
おくださんは、公文の書き方えんぴつくらいの大きさのものを三本わたしに差し出す。
「ビーントゥバーのチョコレートです。フェアトレードらしくて」
「チョコレート?大好き!開けてもいい?」と聞きながらアルミの包みを開くわたし。ぱくっ。
「すごく香ばしくてとてもすてき味がする!このチョコ気に入っちゃった。おくださん、この名前もう一度教えてくれる?難しくて」
「ビーントゥバーです。ビーンは英語で豆、バーはチョコレートバーのこと。豆からチョコへ、つまり素材にこだわったチョコレートという意味です。
「へえ。おくださんは本当に物知りね。ビーントゥバーか。ビーントゥバー、ビーントゥバー」わたしは噛みしめるように繰り返した。
もらったチョコはとてもおいしくて三本ともすぐになくなっちゃった。
ビーントゥバーのチョコを食べ終わった後、わたしたちはたくさんお話をして(おくださんはフェアトレードという、安くて美味しいバナナにひそむ怖い話をしてくれた)、そして時々おくださんの背中をそろばんでかいたりして楽しく過ごした。
途中でねこのもどきさんが今度はニラをくわえて道を通ったけど、私たちに向かってニヤっとしたように見えたのは気のせいだったかしら。
「すっかり長くおじゃましちゃった。そろそろ帰るわ。ビーントゥバーのチョコありがとう!」
「こちらこそありがとうございます。また会いましょう」
庭の塀から下の道に降りるわたし。てくてくて。あー、あのチョコ美味しかったなぁ。
「ハロー、とうふさん。ニャウアーユー?」隣まちでねこ英語教室の先生であるガガさんだ。
「ガガさん、こんにちは。元気よ。そうそう、今日はホワイトデーでしょ。英語だと白い日で合ってましたよね?」
「イエス、とうふさん。グッドアンサーですよ。あれ?口のところに何か茶色いものが付いてますよ?」
「え?なになに?!」私は前足でごしごしぺろぺろして口を洗った。甘い味がする。
「ああ、これチョコレートです。さっきおくださんにホワイトデーのプレゼントでもらっんです」わたしはおくださんの話を誰かにするときちょっと顔が熱くなって声がいつもより優しくなる。
「特別な豆で出来てる上等なチョコで、ええと、、、何だったかしら?何とかビーだったっけ?何とかバーだったかしら?」
あんなに教えてもらったのにまた忘れちゃった。気長なガガさんは、わたしが思う出すのを待ってくれている。
んんー、んんー、ううううむむむむ、あ!!
「ガガさん、思い出しました!ボーントゥビーです!」
ガガさんは、一瞬だけ不思議な顔をしたけれど、すぐニコッとわらって
「ボーントゥビー!それはそれはニャンダフルなチョコですね!」と言った。
「そうなの、ニャンダフルなボーントゥビーのチョコレートなのよ」
言った時は、ボーントゥビーで合ってるかいまいち自信がなかったけど、英語の先生であるガガさんも褒めてくれたんだし、それが正解のような気がする。
わたしはなんだか胸を張りたいような嬉しい気分になった。4月もホワイトデーがあればいいのにな。
おしまい
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