見出し画像

[小説]クイズ



ーーこんにちは。

おう、今日もよろしく

ーー今日もトレードマークの革ジャンですね。

そう、ライトニング。俺の人生はロックでパンクだからね

ーーさて、昨今、革命的イラストレーターと謳われているxxさんですが、今日は最新作のイラストについてのインタビューについてです

うん、何でも聞いていいよ。

ーーではまず、絵が左右対称に二つに別れているみたいですがこれはいったい何を意味しているのでしょうか。

これはね。俺の好きなものと嫌いなもの、いや懐疑的なものかな、を表しているんだよ。右下には剣、左下にはハートが描いてあるだろ。これは騎士ってのは右で剣を持って心臓がある左側に盾を持っているとこから来てるんだ。これは恋愛漫画とかにも使われていたりするんだよ。例えば劇中で女性のキャラの右手を男性のキャラの左手と繋いでいたら男性が女性を守る意味が示唆されていたりするのさ。まあ、だから左側に俺の好きで大切にしたいもの、そして、右側に俺が疑問を持っていることを描いたんだ。

ーーなるほど。では左右に描かれているものとはxxさんにとって何なのでしょうか。

この作品を作る前にね、俺はエゴってものを考えていたんだよ。それでな、俺には好きなエゴと嫌いなエゴのようなものがある気がしたんだよ。左は俺の好きなエゴ。俺さ、誰かがこうしたいっていうのって夢とか希望とか世の中で言われてるけど、それって誰かの、個人のエゴだと思うんだよ。で、そういうエゴってきっと嘘偽りのない純粋なものだと思うんだ。だから俺はそういうエゴって素敵だなって感じる。
一方で右は俺が懐疑的に感じてるエゴ。これは上手く一般化出来ない気がするから特定の場面を描いた。誰かが俺にプレゼントを渡すっていう場面だ。俺はプレゼントってのがどうも苦手でね。向こうのエゴが透けて見えてくる気がするんだよ。
例えば、私がこれくらいの金額のプレゼントを渡したんだから同じくらいの金額のものを返してねって気持ちとか。
あと、欲しくないプレゼントをもらった時にどんな風にリアクションすればいいのかわかんねえんだよ。きっと俺がプレゼントもらって喜ぶと、あげた側も喜ぶってのは想像出来る。でも、それって俺がその一瞬だけそいつのエゴを満たすために自分を偽って演技をしろってことだろ。それで相手が喜ぶならいいじゃんって言う人もいるけどそれって俺を犠牲にして相手が快楽を得ているってことだ。それってどうなのかなって俺は思うわけだよ。

ーーなるほど。そういったお気持ちを今回のイラストで描かれたというわけですね

そうなんだよ。ところでさ、あなたは俺のイラストどう思う?

ーーとても、素晴らしいと思いますが...

そうかい。俺はね、自分の絵が上手いと思ったことは一度もないんだよ。むしろ上手くなってはいけないとさえ思っている。何でかわかるかい?

ーーすみません、わかりません

別に謝ることじゃない。俺はな、誰にでも俺みたいな絵は描けると思って欲しいんだ。こんな簡単なイラスト俺でも、私でも描けるってね。昔俺がブルーハーツを聞いたときと同じだよ。この音楽なら俺でも出来る、このギターなら俺でも弾ける。俺がそう思ったように俺の絵を見た人にもそう思って欲しいんだよ。



-----------------------------------------------------------------------------

原稿を渡すと先輩はいつも通りさーっと読んでいった。
「何でこれにしたの?」
「えーと、ただの小説じゃなくてインタビューの形式になっているのが面白いなと思いまして」
先輩は原稿を見ながら私の言ってることを聞いている。
「確かにあまりインタビュー形式の小説は見ないね」
顔を上げてそう言うとさらに話を続ける。
「でも形式だけ奇をくらっても中身がこの程度じゃだめかな」
私より数年早く出版社に入社しただけなのに自信を持って先輩はそう言う。
じんわり背中に汗をかいてくるのを感じる。
「この原稿の何がいけないと思う?」
私は答えられない。
しばらくして先輩がまた口を開く。
「このインタビューを受けている男が全て説明してしまってるところだよ。小説、特に純文学では行間が大事だとされている風潮がある」
私は黙って話を聞く。
「読者や作品を受け取る側が自由に解釈出来るように余白を残しておくんだよ。しかしこの原稿にはそういった部分が見られない。わかる?」
本当にそうだろうか。この作者はそういった部分を本当に残していないのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?