[小説]日焼けしてる1ページ

つまんないね。

つまんない。

つまんねえ。

何もかもつまんねえ。

何か終わってもまたもうどうしようもない何かが来る。

こんなのもう詰んでるじゃん。

そう思いながら私は机の中の教科書を鞄の中に入れて帰る支度を始める。

教室中の他のクラスメイトも各々自分達の放課後の準備を始める。

きっといつかこんの風景が懐かしく思える日が来るのだろうと容易に想像出来る。
何てったって今の私でさえ懐かしくもないのに懐かしいと感じるような風景だから。

もうこの瞬間は戻ってこない、そんな予感がするからこそ今を噛み締めているのに、それでも噛み締めたらないと後で気づく。

じゃあどうすりゃいいんだよ。

男子の何も考えてなさそうな馬鹿みたいに大きな笑い声が聞こえる。

あれこそ青春を120%楽しんでる人達だろう。もし、青春の謳歌を描きなさいという美術の課題が出たら馬鹿騒ぎして大笑いしている男子高校生を描けば満点合格だ。
普段は馬鹿だなって思うけど、ああいう所見ると男子っていいなと思う。

友達にまた明日と言って教室を出て、廊下を歩く。運動部の掛け声が聞こえる。きっと体育館からだ。お勤めご苦労様です。

いや、ちょっと待って。体育館からってことはバスケ部かも。そんなことを考えてると今日の体育のバスケの授業を思い出してた。体育館の校舎側のコートを女子、校庭側のコートを男子が使っていた。

いやぁ、バスケしてる西山君かっこよかったなあ。ホント。でも真凛と付き合ってるんだよね。まあ真凛可愛いしお似合いだよな。でも私もそんな負けてないと思うんだけどな。西山君が彼氏っていいな、羨ましい。

私は昔から運動神経の良い男子に弱い。これはもう原始人時代にメスは強くて逞しくて狩りの上手いオスじゃないと生きていけなかったときのDNAが未だに私に刻まれていると言うことだと思う。そういえば小学生の時、運動神経の良い男の子にバレンタインのチョコあげてたな。かっこいいとか思ってたんだけど中学生になってグレて不良になってからはホント嫌いになった。グレてカッコつけててダサ過ぎて寒過ぎてもう見てられなかった。

そうしているうちに下駄箱に着いた。下駄箱からローファーを取り出して、上履きを脱いで、脱いだ足を順番にローファーに入れて、片手で上履きを持ちあげて、下駄箱に入れる。流れるように順番にこの動作をこなしていく。今ならもしかしたら目を瞑っても綺麗に靴を履き替えることが出来るかもしれない。

校舎を出て学校の最寄りのバス停目指して歩く。まだ5月だと言うのにもうかなり暑い。風は少し吹いているが日差しが強いため空気が温い。上着のブレザーを脱いでワイシャツの袖を捲る。個人的にワイシャツの袖を捲らないで長袖のままでいるのはちょっとカッコ悪い気がするからいつもブレザーを脱ぐ時は袖も捲るようにしている。

草の匂いを纏った温い薫風が私の髪とスカートを揺らしながら肌を撫でる。くすぐったいような気持ちような気がしながら、ブレザーのポケットからイヤホンを取り出しスマホに繋いで適当なバンドサウンドを流す。女子高生が制服でイヤホンして音楽聴きながら気怠げに歩いていれば画になる。こういうのは大して気怠くなくても気怠げに歩くのがポイントだ。まあ、こんな暑い放課後に気怠げにならない女子高生なんていないと思うけどね。そう思いながらも学校の脇を歩いていると、バス停が見えてくる。背中にじんわりと汗をかいてきたのを感じる。

バス停に着くと一人の男子生徒がすでに先着でバスを待っていた。かなり暑いのにブレザーを脱がずに涼しげな顔で本を読んでいる。まあ、結構細身の身体してるからあんまり暑くないのかもな、最近の男子はたまに女子よりも細いのがいるから不服だ。そんなことを考えながらチラッと男子生徒の顔を見る。大人しめで聡明そうな整った顔立ちをしている。この子は多分意外とモテるぞ。そうだな、大人しそうな女子からは間違いなく人気あるし、普段キャピキャピしてる女子からも意外と好意を持たれてそうだな。制服が新しいからもしかしたら一年生かも。そっか後輩君かあ。

まあ、あんまり運動得意じゃなさそうだし私の好みじゃないんだよなと考えながら、二人で並んでバス停に立っているのを俯瞰して見た気になる。
ああ、悪くねえ。

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