[小説]音のしないSOS

タイムラインにとあるニュースが流れてきた。”△△県、教育委員会、小学校生徒の日記をAIで解析し悩みや不安の早期発見へ”
何言ってんだこれ、と思いながら記事の本文を斜め読みする。要するに小学生の児童に日記を書かせて、それをAIで解析して児童の心理状態をチェックするらしい。

全くこれだから教育委員会は何も分かってない。そんなので心の状態を読まれて見る側の気持ちを考えることも出来ないのだろうか。気持ち悪いに決まってる。自分が少しおかしなこと書いただけでサイコパス扱いされるなんて考えたら恐ろしくて何も書けやしない。

コメント欄を見てみる。ほら、案の定だ。
「これを教育委員会が正気で考えているとは思えない」
「自分の日記を誰かに見られるのってすごい嫌だと思うんだけど」
「教員が気付けない子供の心の状態を機械が気付けるとは思えないんだけど」
「また要らん宿題やらされる子供の身にもなってみろ」

最近は何もかもAIだ、デジタルだ、と世間は騒いでる。胡散臭いにも全くほどがある。それをましてや繊細な子供の心理状態のチェックに使うなんて批判の声が来るに決まってる。自分が学生だったときは友達と実際に話して心を通わせていたものだ。一体本当に教育委員会は何を考えているのやら。

私はすぐにニュースを消して、動画サイトでおすすめに出てきた動画を見ることにした。



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あれ、ここどこだっけ。
なんだか空に浮いてる気がする。体がふわふわしてる。
下を向くと色んな人が見慣れた街を歩いていた。

次の瞬間僕は全てを理解した。
あーそうだった。僕は死んだのだった。
自分で校舎の上から飛び降りた。
それ以外どうすればいいのかわからなかったから。
そしてその結果、こうして僕は幽霊になったのだ。
今いる世界は僕が死んだ後の、少し先の未来らしい。

さて、どこに行こうか。
幽霊になった僕はどこにだってすぐに飛んでいくことが出来る。どこにしようかな。
やっぱりあそこにしよう。
最後に僕が息を、呼吸をしていた場所。学校だ。

学校に行くと僕の知らない生徒がたくさんいた。少し先の未来だから当然だと思う。
みんな自分のタブレットに何かを書いているようだった。
チャイムが鳴る。
「じゃあ、みんな提出ボタン押して提出しといてねー」
先生がそう言うと、はーいと元気そうな声をして生徒たちが応えていた。

どうやら今の僕には世の中の全てのことがわかるらしい。
なるほど。生徒たちは日記を書いていたのだ。そしてその日記はAIによって解析され、生徒達の心理状態をチェックするらしい。
最新の技術によって、今までの蓄積されたデータから悩みや不安の早期発見に繋がっているみたいだ。

いいな。

咄嗟に自分の口からそう零れていた。
だって僕の時にはそんなもの無かったから。僕は誰にも言えなかった。そんなのお前が誰かに相談しなかったのが悪いと言われればそれまでだけど僕にはそれが出来なかった。それを出来ない者には生きている資格はなかったのだろうか。
僕だって飛び降りたくなかった。出来れば生きていたかった。お母さんやお父さんを泣かせたくなかった。

この時代の子達は僕のようにはならないのかもしれない。自分から助けてと、言わなくても助けてくれる世界なのかもしれない。

いいな、いいな。この時代の人間っていいな。

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