[小説]ゴッホ

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ここ数日僕はゴッホについて調べているんだ。君も知っているだろう、ひまわり等を描いた画家のゴッホだよ。

僕ももちろん絵画には明るくないとはいえゴッホっていう名前は知っていたさ。世界で一番有名な画家の一人と言ってもいいはずだからね。ちなみに僕は星月夜って作品が好きかな。とても幻想的で素直に綺麗な絵だと思うよ。

そんな僕が今更なんでゴッホにハマったかというとその理由は彼の人生にあるんだ。正直に言うと僕はゴッホの絵よりも彼の人生にハマったと言ってもいい。こんなこと言うと怒る人もいるかもしれないけれど今の僕にとって絵はあくまで彼の人生を見るための補完だ。彼はとてもドラマチックな人生を送っていたんだ。まるで小説の主人公のように。

説明下手な僕だけど君にも知って欲しいから簡単に説明させていただくね。僕も調べ始めたばかりだから細かいところが違っているかもしれないけど、そこは勘弁して目を瞑って欲しい。

ゴッホはオランダ生まれで、生まれながらにして少し思い込みが激しい性格というか怒りやすい性格というか、とにかく少し難しい性格だった。学校や友達にも馴染めず、学校に行かなくなってしまう。そしてその時に母親から絵を教えてもらうんだ。ちなみに彼には四つ年下の弟がいるんだけどこの弟がゴッホを生涯支えることになる。

15か16の時にゴッホは知り合いを通じて画商として働くことになる。しかし、しばらくして失恋等を通して働けなくなり解雇されてしまうんだ。

その後彼はキリスト教にはまり牧師になろうと決意する。しかし当時、牧師になるというのは結構大変なことでたくさんの試験をパスしなくてならなかったらしい。子供の頃から学校に行っていなかったことも相まってか、ゴッホにとって牧師になるための勉強は難しすぎたみたいだった。

しかし牧師になることを諦めきれないゴッホは今度はキリスト教の伝道師の助手としてオランダの炭鉱町で働き始める。伝道師の助手というのは当時特別な資格が必要なかったためにゴッホでもなることが出来たらしい。しかし炭鉱町の労働者に肩入れしすぎてしまった彼は彼らに身もちのものを分け与えてしまい、自身もその労働者達と同じように貧しく、ひもじい生活、見なりになってしまう。それは当時の伝道師の助手としてのあり方に反していたために、結局彼は伝道師の助手という仕事もクビになってしまう。

この時点でゴッホは27歳。そしてこの頃からゴッホは絵を描き始めるんだ。

とりあえずここまではどうだろう。ここまでの話を聞く限り彼は何をしても失敗してばかりだ。きっと周りからはろくでなしだとか思われていたのかもしれないね。

そして画家としてキャリアをスタートしたゴッホ。初期の頃に彼が描いていた作品は暗い色調の絵が多いんだ。それはきっとあの"種蒔く人"等で有名なミレーに憧れていたというのもあるだろうし、彼は農作民を描きたかったからなんだ。そう、あの炭鉱町の労働者を助けようと伝導者の助手と働いていたときと同じようにね。

しかし絵は全く売れなかった。何故なら当時は印象派という"睡蓮"のモネやルノワールが人気になり始めた頃だったからだ。ゴッホはパリで画商として働く弟を頼ってパリに行き、そこで印象派の絵や当時話題だった日本の浮世絵に出会う。きっととても刺激を受けたんだろうね。彼の絵は如実にそういった絵の影響を受けて色彩が明るくなるんだ。

しばらくすると彼は南フランスのアルルという場所に家を借りて暮らし始めるんだ。南フランスは彼にとって彼のオアシスでもある日本に似たところがあると思ったらしい。そしてパリの芸術家達をアルルに来て同じ家で一緒に暮らすように誘うんだ。彼はアルルを芸術家のオアシスにしたかったのかもしれないね。その時に出来た作品があの有名なひまわり達なんだ。

そして一人の画家がアルルに来てゴッホと一緒に暮らすようになるんだ。それがゴーギャンだ。しかし、昔から人と関わるのが苦手だったゴッホはゴーギャンともトラブルを起こしてしまう。それがゴッホが自分の耳を切り落としたことで有名な耳切り事件だ。この頃からゴッホは精神疾患を患うようになってしまう。

その後精神病院に入って療養しながらも彼は絵を描くんだ。この頃出来たのが星月夜といった作品たちだ。

そして知り合いの精神病院の医師を頼ってパリ郊外に住むようになる。ここでもゴッホは精力的に絵を描く。しかしここでゴッホは銃を使って死んでしまう。様々な説があるが自殺ではないかと一般的に言われている。享年37歳。そう、ゴッホは僅か10年しか画家としては生きていない。そして彼の絵は生涯で一枚しか売れなかったと言われている。今のゴッホの人気は死後確立されたものなんだよ。

さて、簡単にだけどゴッホの人生を綴ってみたがどうだろう。本当はもっと詳しいところがあるんだけど今回は省かせてもらった。とてもドラマチックな人生だと僕は思う。そしてこの人生を知ってしまった後だと僕は彼の作品を見ると、まるでその作品を通じて彼の人生や物語を見ているような気分になるんだよ。

そしてその物語に僕は自分を見てしまうんだ。君も知っての通り、僕は最初の頃のゴッホのように何をしても上手く行ってないからね。そして彼のように今更小説や詩を書き始めているんだから。もちろん僕にはゴッホのような才能は微塵もないことは分かっているけどね。でもだからこそ、どうしてゴッホが27歳で絵を描き始めたのか、僕は僕の主観だけどなんとなく分かってしまう気がするんだ。

きっと他に何もなかったんだと思う。こんなの他の人だって簡単に思いつくって君は言うだろうね。でも僕はそれをかなりの実感、質感を持って分かるんだ。まるで自分の中で手にとっていろんな角度から眺めることが出来るように。知識として知っているのと実感を持って知っているのは雲泥の差なんだよ、〇〇。パリで印象派の他の画家たちと出会ったときの気持ちもよくわかる。きっと本当に嬉しかったんだと思うよ。自分と同じ志を持つ仲間に出会えた。絵についての話をすることが出来た。そして、それは今まで絵は全く売れていなかったけれど、自分も本当の画家になった気分になることが出来た。そう言う風に感じさせてくれたんだと思う。だからこそ彼はアルルで仲間を募った。

そう、ある人にとって芸術は最後の砦になるんだよ。
そしてゴッホは自らの人生を自分の手で閉じたと言われている。

ここまで彼の気持ちが分かってしまうといつかは僕もゴッホと同じ人生を辿ってしまうんじゃないかと考えてしまう。君も知ってるけど僕は普段からよくそんな事を考えているしね。


僕もあと2年で27歳だ。いつか27クラブのことは話たことがあるね。もし僕も彼らと同じく27で死ぬことが出来たら、それは僕にとっての救済でもあるし、幸せなことなのかもしれないね。

でもやっぱり少し寂しいかな。せめてもう一度だけ君に会いたい。
面と向かっては恥ずかしくて言えないけれど、もう君と会うことはないはずだし、手紙だからこそこんな恥ずかしいことも言えるよ。

全く芸術は本当に凄いよ。誰かにとっては芸術は腹も満たさないただの無意味な役立たずだけど、同時に僕のように誰かを狂わす力もあるからね。まあ元から僕がおかしいだけで芸術はただのきっかけに過ぎないのかもしれないね。

いつかゴッホをモチーフにした小説を書いてみたいと考えている。全く同じ話じゃなくて僕のオリジナルを少し含めた物語をね。


また手紙を送ります。
それじゃ。

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