見出し画像

「陟岵」(詩経)

陟彼岵兮    くさもきもない

        やまにのぼりて

瞻望父兮    はるかとおくの

        ちちをながめる

父曰嗟予子   ちちはこういう

        ああわがせがれ

行役夙夜無已  いくさにゆけば

        みをこにしなよ

上慎旃哉    まちがいだけは

        やってくれるな

猶來無止    そしてかならず

        もどってこいよ


陟彼屺兮    くさきのしげる

        やまにのぼりて

瞻望母兮    はるかとおくの

        ははをながめる

母曰嗟予季   はははこういう

        ああわがむすこ

行役夙夜無寐  いくさにゆけば

        ねるひまもない

上慎旃哉    まちがいだけは

        しないでおくれ

猶來無棄    そしてかならず

        かえっておいで


陟彼岡兮    こんもりとした

        おかにのぼりて

瞻望兄兮    はるかとおくの

        あにをながめる

兄曰嗟予弟   あにはこういう

        ああおとうとよ

行役夙夜必偕  いくさにゆけば

        はぐれずにいろ

上慎旃哉    まちがいだけは

        おこさぬように

猶來無死    そしてかならず

        しんでかえるな


「陟岵」(詩経)

*中国最古の詩集『詩経』から一首。この詩は、出征した兵士が故郷にある家族を思って詠んだもので、三章だての歌謡形式になっている。同じフォーマットの中での最小限の字の置き換え方が、実に洗練されていて、平易で美しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?