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【感想】吉増剛造さん詩の朗読・講演@慶応義塾大学(三田キャンパス)


▶「絶対に見た方がいい!」と勧められ

 1月21日、慶応義塾大学三田キャンパスにて「没後38年 土方巽を語ることⅩⅢ」(主催:慶應義塾大学アート・センター)が開催されました。世界的舞踏家・土方巽の命日に開催され、今回で13回目となるこのイベント。今年のゲストスピーカーは、土方巽と交流のあった詩人・吉増剛造さんでした。

吉増さんは、1968年の土方巽のソロ公演《土方巽と日本人――肉体の叛乱》で土方巽の舞踏に初めて立ち会い、それ以降も土方巽の舞台に接しています。そして、50年を超えて、土方巽の踊りについて語り、街角での歩行について語り、さらには土方巽の言葉の声に耳を傾けてこられました。

2024年1月21日は、吉増剛造さんと語り合う場にぜひご参集ください。

慶應大学アート・センター「没後38年 土方巽を語るⅩⅢ」HPより
http://www.art-c.keio.ac.jp/news-events/event-archive/htanniv-38/

“あまい雪の色のような、……”土方さんの声が、わたくしの脳裏に投射(遠く映しだ)されていた。もう、五十回、百回とこの声の根の、涼しさ、遠さを聞いていた。不図、わたくしにとって“土方巽の声”に耳を傾ける、根の言葉にこうして出逢ったと思う、それは“遠さ”であった。この“遠さ”を、根か切株か、あるいはどこかの山際の接木に、宇宙の敷石にして、もういちど土方巽という、謎の、稀有の舞踏家の姿を脳裏に映してみる。

吉増剛造「土方巽/遠さ」
『舞踏言語―ちいさな廃星、昔恒星が一つ来て、幽かに“御晩です”と語り初めて、消えた』(2018年)

吉本隆明は「日本でプロフェッショナルだと言える詩人が三人いる。それは田村隆一、谷川俊太郎、吉増剛造だ」と評している。

Wikipedia「吉増剛造」より

 実は私は、吉増剛造さんが日本を代表する詩人であることも、「全身詩人」という異名を持つほどの朗読パフォーマンスをされることも、少し前まではぜんぜん知らなかったんです(汗)。今回は、私の師匠・寳玉義彦さんに「絶対に見に行った方がいい!」と勧められて参加しました。

▶いろいろとカルチャーショック

 吉増さん、「今日のために、お正月から原稿を書いてきました」ということで、会場に配られたのが下↓の画像の原稿(写真は紙の端のほんの9×13cm程度。実物はA3用紙×2枚にびっしりの文字)。これが、土方巽と吉増さんの関係について書いた詩ということです。もぅ見た目が衝撃…! 読めますか?(笑)。

会場で配られた、吉増剛造さんによる原稿(一部)

7 JAN 2024(日曜日)ようこそ、お出座しくだ(くな…)さいました。…ここ慶應での土方巽師の三十八回忌…いや、没後三十八年、といわなければいけないのでしょうか…。この“とき”の不明の深さ、遠さが、書きだしましたばかりのわたくしの肺腑を打鼓(だこという聞きなれない言葉が自ら立ちあらわれて…)ハイフヲウツ気がいたします。

吉増剛造「土方巽を語るⅩⅢ」における原稿の書き出し

 ↑書き出しの部分を文字起こししてみましたが、合ってるかな…? この原稿がスクリーンに大きく映し出されており、それを吉増さんが「紙よりこっちのが読みやすいや(笑)」などと言いながら朗読していく講演会でした。途中、「あれ、なんて書いてあるんだろ…?」と、自分でも読めなくて考え込んだり、「ちょっとここで聴いてください」と土方巽の音声が録音されたカセットテープをかけたり。吉増さん、テープの音声にウケて「はっはー!」と笑う場面もあり、こんなに自由でいいんだ(笑)という感じ。朗読?、講演?、…何にカテゴライズしていいかわからない吉増さんのお話しぶりにカルチャーショックを受けながらも、とても楽しい時間が流れていきました。

▶表現はもっと自由でいい

 実は私、内容に関してはあんまりよく分からなかったです(笑)。早い段階で、「これ、頭で理解しようと思ったらだめなやつだ」と思って、リラックスして楽しむことにしました。でもちゃんと、吉増さんが土方巽から多大な影響を受けたことや、土方巽をリスペクトしていることが、温かく伝わってきました。内容があまりよく理解できなくても、退屈しなかったのが不思議です。体(感覚)で、言語ではない情報をたくさん受け取っていたため、体の方は忙しかったということでしょうか。吉増剛造さんが「全身詩人」と言われる理由が、少しわかった気がしました。

 吉増さんはご機嫌で1時間半ほどお話しになり、膨大な文字数の原稿を読み切りました。

 吉増剛造さんの朗読・講演をお聞きして、書くことも、朗読も、表現も、このくらい自由でいいんだ!、と、自分の中の枠が広がった感覚です。きっちり書こう、上手に書こう、もしくは、しっかり読み取ろう…そういう気持ちに変化が起こったように感じます。もしかして私はずっと、詩を書くときに、言葉の意味に頼り過ぎていたのかもしれません。言葉で書きながらも、言葉の束縛から脱していく詩…そんなことをできるのかわかりませんが、その方法を模索していきたくなりました。

 吉増剛造さんの朗読をまだお聞きになったことがない方は、是非おすすめですので、今後の情報をチェックしてみてください。また、当日の映像ではありませんが、現場の雰囲気に似ている動画がありましたので、以下にご紹介します。

 また以下の動画は、講演会よりだいぶ表現が過激ですが、ご参考までに。コアなファンがいるバンド「空間現代」と吉増剛造さんのコラボ映画『背』(2022年)の関連動画です。

 そのうち、今回の講演もYouTubeにアップされるのではないかな? 慶應義塾大学アート・センターのチャンネルも要チェックです。

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