フレイルと入浴

[フレイルと入浴]

フレイルとは虚弱のことです。
健康な状態(自活生活)と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や
認知機能の低下が見られる状態のことです。

Aさんは街道沿いで商店をやっています。
Aさんの家族は店舗兼住宅で生活しています。

Aさんの母のBさんは、渡り廊下で繋がった旧宅で一人暮らしをしています。
食事だけは息子家族と一緒に摂りますが、それ以外は自由きままな生活を
送っています。

若い頃から風呂嫌いだったBさんは、引退後は入浴頻度が徐々に減少して
最終的には3か月に1回になっていました。

ある冬の午後、意を決して3か月ぶりの入浴をしました。
Bさん宅の風呂は、洗い場から風呂の縁までは15cmしかない一方、
風呂の縁から風呂の底までは75cmもあるオールタイル製です。

Bさんは3か月前の入浴では問題が起こりませんでした。
しかし、今回はどうやっても湯船から出られませんでした。
パニックになったBさんはお湯を抜いてしまいました。
浮力がなっくなったBさんは益々風呂から出られない状況になって
しまいました。

Bさん宅の風呂はお湯を溜められず、水を溜めてからの追い焚きしか
できませんでした。

Bさんが風呂の底で震えているのを発見したのは、夕食の迎えに来た
息子のAさんでした。
お湯を抜いてから3時間後のことでした。

Bさんは風邪を引きましたが、幸い肺炎にはならずに済みました。



Cさんは商店街で店を構えています。
子どもが独立し、奥さんに先立たれてからは、商売を縮小し
知人や昔からのお得意さんだけにターゲットを絞って商いをしています。

Cさんの斜向いにDさんが住んでいます。
Dさんは子どもが独立し、旦那さんに先立たれて、商売をやめました。
1階の店舗部分は貸店舗にして、2階に一人暮らしをしています。
若い頃Dさんは美人で有名でした。
わざわざDさんが通う女子高の脇を通って通学する男子生徒が
大勢いたそうです。

実はCさんもそのひとりでした。
Dさんが斜向いの商店に嫁入りした時には、それはそれは驚いたそうです。
しかし、高度経済成長期、なおかつ商店街の最盛期だったので、
てんやわんやでDさんのことを気にかける暇が無かったようです。

ところが、お互いに一人暮らしになってみるとDさんのことが
気になり始めました。
おばあちゃんになったDさんですが、それでも綺麗なおばあちゃんには
違いありません。

ある日、店じまいをするCさんは、Dさん宅の風呂場とおぼしき所に
電気がついているのを確認しました。
Cさんは2階へあがり晩酌を始めまたところに友人が遊びに来ました。
友人を見送るために1階へおりました。
すると、Dさん宅の風呂場とおぼしき所の電気がまだついています。
近寄って声をかけると、「助けて」とかすかな声が聞こえました。
Cさんは警察と消防に連絡しました。

Dさんは風呂から出られずに、パニックになってお湯を抜いて
しまいました。
Dさん宅の風呂は、風呂の側面に鉄管があって、その鉄管で追い焚きする
特殊な物でした。
変形五右衛門風呂とでもいうべき風呂でした。

転倒したDさんはその鉄パイプで火傷を負い、入院に1年以上、
リハビリに2年以上かかりました。


現代的な湯船が浅く寝そべるように入る風呂なら安全でしょうか。
フレイルの高齢者が寝そべった状態の風呂から起き上がれるでしょうか。



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