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房総半島・漂着軽石調査(11月14日)

はじめに
 福徳岡ノ場から漂着したと考えられる軽石が、昨日11月13日に伊豆大島、三宅島等でも発見されるに至り、いよいよ本州沿岸への同軽石漂着の可能性が懸念された。軽石の漂流・漂着は交通や漁業はもとより、防衛、物流、レジャー等広い範囲に影響することが想定される。
 特に伊豆大島では帯状に海岸に漂着した軽石の情報を得たことから、翌2021年11月14日に房総半島南部における漂着軽石の調査を試みることとした。房総半島南部は黒潮系暖流の影響を受ける地理的位置にあり、とくに南東部に開けた海岸である平砂浦は、伊豆大島から北東に40㎞足らずと「目と鼻の先」にある。黒潮系暖流の蛇行等にもよるが、本州でも最も早い漂着も想定され、調査は平砂浦を中心として実施した。

調査の結論
 結論から言うと、平砂浦の中央部において多数の漂着軽石を発見したが、漂着状況や軽石の特徴から、福徳岡ノ場の軽石であると断定できる軽石は得られなかった。平砂浦でみられた材や竹などに紛れて浜の奥のほうにある材や竹などの打ち上げ帯のもので、帯状に打ちあがるという伊豆大島のような状況ではなく、波打ち際や海面での軽石の漂着も見られなかった。
 かつ、得られた軽石も長く漂流や漂着、海岸での移動を繰り返したとみられる摩耗の進んだ軽石が主体で、福徳岡ノ場起源とされる軽石の特徴とは異なる軽石が大半であった。
 今後、本格的な福徳岡ノ場を起源とする軽石の漂着を前に、11月14日現在にて、著者の調査の範囲では房総半島南部東京湾側において本格的な軽石漂着は認められなかった。今後、房総半島に軽石漂着があった際の、元々の軽石漂着状況の基礎資料および、識別のための資料となれば幸いである。

福徳岡ノ場の軽石に近い試料
 なお、平砂浦海岸で得られた64個の試料の中から、少しでも福徳岡ノ場の軽石に近い特徴のある軽石を10個選別した。福徳岡ノ場の軽石を見た、触ったことがある方で、これが似ているのではないか、という軽石があれば筆者までご教示ください。

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調査地点
 海岸において打ちあがった軽石を確認することを目的として、下記の6か所において漂着軽石の調査を実施した。
①平砂浦南端・相浜海岸(館山市) ※相浜海岸駐車場前
②平砂浦海岸(館山市) ※道の駅南房パラダイス前
③根本海岸(南房総市) ※公衆トイレから南西側
④豊岡海岸(南房総市) ※豊岡青年会館前
⑤岩井海岸(南房総市) ※岩井川河口の南側
⑥湊海岸(富津市)   ※上総湊港海浜公園駐車場前

調査地点と軽石の発見状況について下図に示す。

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調査方法
 海浜を歩いて、打ちあがった物が帯状に分布する「打ち上げ帯」を狙って軽石の有無を確認、試料として採取した。とくに軽石漂着が懸念される平砂浦南端、平砂浦海岸の2か所については、各地点の中でもとくに丹念に打ち上げ帯を追跡した。軽石がみられる場合には、目視で大きさ、形状、色調、摩耗状況などを観察した。

調査結果
①平砂浦南端・相浜海岸(館山市) ※相浜海岸駐車場前
 海藻・材片を中心とした打ち上げ物が広く浜の北端、南端近くに分布し、浜野の中央部には貝類(多種のタカラガイ類を含む)を主体とした打ち上げ帯の形成があった。駐車場前の浜を2週ほど、各打ち上げ帯や波打ち際を目視して歩いて調査を実施した。

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 軽石は、扁平なよく円摩された白色のもの1個(長さ36㎜、厚さ6㎜)を発見したに過ぎなかった(写真で黒い粒は砂粒)。

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②平砂浦海岸(館山市) ※道の駅南房パラダイス前
 道の駅南房パラダイスから防砂林を抜けて平砂浦に出て、流入する河川の南側で調査を実施した。河口付近に木材、材片や竹などを中心とした打ち上げ物が集中しており、この中に大量の軽石が点在していた。浜の南側(2枚目)ではほとんど打ち上げ物はなかったが、護岸きわにわずかな材片などともに軽石が点在していた。河口砂州付近も丹念に歩いたが、軽石が散らばるような打ち上げ帯は発見できなかった。波打ちぎわを漂うような軽石は発見できなかった。

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 軽石は、最大のものが幅165㎜、厚さ85㎜を筆頭に、64個を採取した(同行者が10個以上を別途採取している)。白色みが強い軽石が主体で、よく円摩されて丸みを帯びたものが多い。不定形で角の多く有色鉱物の多い特徴を持つものは少なかった。実際には様々な色調の軽石が混じっており、複数の給源からもたらされた軽石があると考えられる(以下の2枚の写真は集めた軽石を並べたもの、袋の中身をみたもので漂着状況は表していない)。
 ※筆者は軽石というか火山学の専門ではないので、研究目的で必要な人がおりましたら必要に応じてお分けします。

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③根本海岸(南房総市) ※公衆トイレから南西側
 根本海岸は、公衆トイレから南西側の海岸で調査を実施した。顕著な打ち上げ帯は発達しないことから、点在する材や竹の多いゾーン、波打ち際を探したが、軽石は発見できなかった。

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④豊岡海岸(南房総市) ※豊岡青年会館前
 豊岡海岸は、浜辺に流れ込む河川の北側、河口付近での調査を実施した。河口付近の打ち上げ帯が発達している部分に集中して調査を実施し、海側に貝殻が多い打ち上げ帯が、陸地側に材片、竹の多い打ち上げ帯があり、後者において軽石3個が点在していた。

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 軽石は3個、材や竹に混じって発見された(写真は3つを集めたもの)。最大の1つは幅70㎜、厚さ65㎜程度の円形に近く、数個体のエボシガイが付着していた。ほか、15㎜大の赤みがかかった軽石、30㎜大の白みの強い軽石が発見できた。

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⑤岩井海岸(南房総市) ※岩井川河口の南側
 岩井海岸では、岩井川より南側の、駐車場前の海岸に絞って調査を実施した。材や竹を中心とした打ち上げ帯が発達しており、漂着軽石1個を発見した。

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 軽石は白色が強く40㎜大で若干の円摩はみられるもの1つを得た。

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⑥湊海岸(富津市)
 上総湊港海浜公園の駐車場より浜辺に出た付近で調査を実施した。幅の広い浜辺に材・竹、貝殻の打ち上げ帯が発達し、海寄りにも海藻なども目立つ打ち上げ帯を発見したが、軽石は発見できなかった。

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まとめ
 漂着軽石は、平砂浦で多量に、豊岡海岸で3個、平砂浦南端(相浜)、岩井海岸で1個を発見したが、福徳岡ノ場の軽石と特徴の異なるものが大半であり、大量の新しい軽石の漂着も認められなかった。
 以上より、11月14日現在にて、著者が調査した範囲では房総半島南部東京湾側において(本格的な)軽石漂着は認められなかったものと考えられる。今後の本州への軽石漂着については、その動向を注視したい。

 ※鎌倉市で発見されたとされる軽石も、現状では福徳岡ノ場の軽石とは異なる特徴のように見ている。私のホームグラウンドである三浦半島でも、普段から軽石は少なからず目にする。なお、東京湾内(かつ湾奥部、河川内)とされる軽石漂着の情報があるが、掲載されている試料が1個、2個ではなく現地漂着状況が不明のため詳細を待ちたいところ。

地盤災害ドクター
横山芳春

<メールアドレス>
yokoyama1128geo(a)gmail.com
 (a)→@としてください

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