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自由に生きる。

※インスタ掲載済みですが、noteにも残しておきます。


うちの猫たちは、中庭の納屋で生まれてから、⠀
10年以上、外で暮らしています。⠀

その間に兄猫と母猫を失ってきたし、⠀
私は1日でも猫の姿が見えないと、⠀
もう帰って来ないんじゃないかと不安になります。⠀
その度に、こんなに辛い思いをするのならば、⠀
猫を家の中に閉じ込めてしまった方がどんなに楽かと思ったことか。⠀

うちには犬猫以外にも多くの家畜がいて、⠀
日常茶飯事のように「死」が身近にあります。⠀
そんな多くの死を見てきて思うことは、⠀
ほとんどの動物は悲しんでくれる仲間を持たず、⠀
独りで死んでいくということ。⠀

たぶん、動物は死という概念自体を持っていないのだと思います。⠀
そして、死の概念を持たないという点において、⠀
動物は人間よりも自由で幸せだとも思うのです。⠀

だから、猫がいなくなるという不安に駆られるのは、⠀
死の概念を持つ人間である私側の問題でしかない。⠀
他の動物同様、猫自身はいつか死ぬかもと思いながら、⠀
不安の中で生きているわけではないのですから。⠀
それならば、辛い思いをするからという私の都合で、⠀
猫から自由を取り上げないことを、心に決めていました。⠀


朝起きるとほぼ毎日、⠀
裏窓の外でガラスにへばりついて私を待っているパシャですが、⠀
最近朝に姿を見かけないことが多かったのです。⠀

夕方にやって来ても、ごはんはあまり食べないし、⠀
ちょっと瘦せたかなとも思っていました。⠀
外で自給自足できる猫たちは、私があげるごはんを食べないことも多いし、とりあえず駆虫薬を飲ませておくことに。⠀

翌日は来客で夜遅くまで忙しかった私は、⠀
猫の姿を見かけることはなく。⠀

翌々日、やっぱり朝帰って来なかったため、⠀
夕方、名前を呼びながら牧草地をぐるりと回って来ると、⠀
パシャはちゃんと家に帰って来ていました。⠀
しかしさらに痩せていて、これはおかしいと獣医に連れて行くことに。⠀

診断は肝臓病でした。⠀
獣医曰く、もう遅い時間のため、入院させて検査をするとのこと。⠀

パシャは生後3カ月でパリに婿入りしたのですが、⠀
アパルトマン暮らしが合わず、4カ月後に我が家に帰ってきた出戻り猫。⠀
ビビり屋で神経質だし、妹猫のクロクロにも我慢ができない我の強い性格。⠀
そんなパシャが入院なんてとんでもないし、⠀
今まで外で自由に暮らしてきた10歳の猫に、⠀
通院や治療を強いることが果たしていいことなのか、私には分かりません。だから応急処置で薬を打ってもらい、連れて帰ってきました。⠀

その夜は私の仕事椅子の上で寝たパシャ。⠀
翌朝、おしっこに連れ出すと私の前で用を足したため、⠀
抱きかかえて家の中に入れると、再び仕事椅子の上へ。⠀

その日は天まで突き抜けそうな真っ青な空で、⠀
外に出ずにはいられない見事な秋晴れの日でした。⠀
クロクロは朝ごはんを食べるとまた外に出掛けてしまうし、⠀
犬たちは中庭で遊んでいました。⠀

私が外での雑用を済ませて帰ってくると、⠀
独りで家にいたパシャが鳴きながら入口にやって来ました。⠀
だから、いつも通り外に出してあげると、⠀
隣家との間の塀をするりと上り、壁の上を伝って行くため、⠀
「ちゃんと帰って来るんだよ」と声を掛けました。⠀
するとパシャは振り返って私を見、⠀
そして塀の向こうに消えて行ったのです。⠀

もちろん、私には分かっていました。⠀
もうパシャは帰って来ないんじゃないかと。⠀

それでも、「死ぬかもしれないから外に出ないで」と言うよりも、⠀
「最後まで自由に生きなさい」と言ってあげたかった。⠀

そしてパシャは帰って来ませんでした。⠀
私は毎日、猫が隠れていそうな場所を探して、⠀
家の周りから牧草地まで見回って歩いたけれど見つからない。⠀

どこかで静かに死んだに違いないと思いながらも、⠀
でもパシャのことだから、家から遠くに行くはずがないと、⠀
探さずにはいられませんでした。⠀

そして、パシャがいなくなって4日目のこと。⠀

私はいつも通り、鶏小屋に行って卵を集め、⠀
その後、パシャのことを考えながら牧草地を一周。⠀
戻ってきて、通り道に置いておいた卵の入ったバケツを持ち上げようと⠀
身をかがめ、目を上げると、⠀
視線の10mくらい先に日の光に照らされて白く光っているものが、⠀
ふと目につきました。⠀

中庭を囲む塀の裏側に幅50㎝くらいの波形の屋根材が立て掛けてあり、⠀
その下にパシャの白い顔が見えている。⠀
一見すると、日向ぼっこしながら昼寝をしているようでも。⠀
周りはリンゴの木々に囲まれ、木陰になっていて、⠀
太陽のスポットライトを浴びていなければ、気が付かなかったに違いない。⠀

塀の向こうでは、中庭で遊ぶ犬たちの気配があり、⠀
目の前の囲い地にはポニーのルキーが草を食んでいるし、⠀
すぐ横にある柵の中は、ニワトリたちで騒がしい。⠀
そして私が毎日、鶏小屋に行くのに通る道の脇。⠀

今考えると、家と牧草地の間なんて、⠀
これ以上パシャらしい場所はなかったのです。⠀
彼が選んだその場所に、パシャを埋めてあげました。⠀

そうか、パシャは私との約束を守って、⠀
ちゃんと家に帰って来てくれたのだと思いながら。

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