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【大相撲 化粧まわし物語】
10年前の2014年。
前職の広告制作会社時代に「大相撲のポスター」を担当させてもらっていました。
毎場所、全身全霊で取り組んでいたのでどれも思い出深いのですが、特に印象に残ったポスターがあります。
それは平成26年(2014年)の秋場所ポスター。
メインビジュアルは力士が「化粧まわし」を着け、土俵入りしている場面でした。
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この頃、ポスターの力士は、その場所以前に行われた取り組みをガチンコで撮影したものを使っていました。
さらに、基本的に顔を映さないビジュアルを起用していたのもあって、毎場所Twitter界隈の相撲ファンからは「あの力士は誰だ!?」を探りあい、その答え合わせを相撲ライターさんが追う、という一連の流れが恒例となっていました。
この時のポスターも、化粧まわしをしたメインの力士2人を追いかけ、それが当時の安美錦関(現 安治川親方)と旭天鵬関(現 大島親方)だと分かり、そこからライターさんが2人に直接インタビュー。
すると2人とも、この化粧回しには特別な想いがありました。
ライターさんの追跡ルポをまとめました。
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もうすぐ秋場所。今場所のポスターに写っている力士は誰なのか?
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相撲協会の公式ツイッターは、「安美錦と旭天鵬!」と言っている。
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安美錦関(左)と旭天鵬関(右)にそれぞれ、この化粧まわしについて聞いた。
—いつごろもらったもので、贈り主は誰なのか?
安美錦関に聞くと、この化粧まわしは思い出の品だった。
「オレが新十両に上がった時、初めてもらった化粧まわし。何年も使ってなくて、この時久しぶりにつけたんだ。贈ってくれた夫妻には入門した時からかわいがってもらってた」。
—なぜ去年の秋場所で久々に付けたのか?
安美関は、こう続けた。
「かわいがってくれた夫妻の奥さんが数年前に亡くなり、10月が命日の月だった。だから付けようかってことになった」。
久しぶりに付けた思い出の化粧まわしが偶然、ポスターに使われた。
「(贈り主は)喜んでくれるだろうね」。
平成19年度の大相撲力士名鑑には、この化粧まわしを付けた安美錦関の写真が載っていた。
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贈り主は富山県の魚津清掃公社。図柄は、福岡県の太宰府天満宮の太鼓橋だろう。
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安美錦関が十両昇進を決めたのは1999年九州場所。
西幕下筆頭で4勝3敗と勝ち越し、2000年初場所で新十両としてこの化粧まわしを付けた。
99年九州は舞の海さんが引退した場所であり、加藤こと後の高見盛も西幕下2枚目で6勝1敗とし新十両を決めた場所でもあった。
伊勢ケ浜部屋(当時は安治川部屋)の九州場所宿舎は、太宰府天満宮にある。
安美錦関が九州で昇進を決めたからこそ、贈り主の魚津清掃公社は富山の会社ながら、化粧まわしの図柄を太宰府天満宮にしたのではないだろうか。
安美関によると、魚津清掃公社の廣瀬社長は、師匠(元横綱旭富士)が現役だったころからの後援者だった。
親方は安治川部屋(現在の伊勢ケ浜部屋)を継承して6年半以上たって、安美錦が最初の関取となった。
そんな後援者だからこそ、最初の化粧まわしを贈ったのだろう。
このポスターで右側に写っている旭天鵬関にも話を聞いた。
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—この化粧まわしは、いつごろ、誰から贈られたものなのか?
ポスターの化粧まわしは、今年の大相撲名鑑に掲載されていた。
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旭天鵬関によると、化粧まわしに刺繍されている贈り主の山本さんは大阪の後援者だそうだ。
ポスターに写っていた2人の化粧まわしは、贈られた時期が対照的だった。
安美錦関は十両昇進を決めた14年前で、旭天鵬関のものはごく最近だった。
「優勝した記念にもらったんだ。だから、化粧まわしの裏には、優勝した日にちと『V1記念』って刺しゅうしてあるんだよ」。
旭天鵬関は、いろいろなエピソードを教えてくれた。幕内優勝を果たしたのは、2012年夏場所。
「優勝を決めた千秋楽は、贈り主の山本さんの誕生日だった。長い付き合いの人でね。14日目の夜に電話がかかってきて『明日、優勝してくれ』って言われたんだよな」。
旭天鵬関の化粧まわしをよく見ると「蓮」という字が刺しゅうされている。これは、2011年に生まれた関取の長男の名前だった。
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旭天鵬関の話はこう続いた。
「ウチの親にとって5人目の孫がやっと男だったんだ。山本さんもそれを知ってたから、化粧まわしを作る時に『名前を入れようか?』って聞いてくれてね。生まれて1年ちょっとで優勝したから、息子がさせてくれたのかなって思ってるんだ」。
旭天鵬関は、今回のポスターの図柄を見てすぐ、写真を撮って山本さんに送ったそうだ。
「そしたらもう、大喜びでさ。チケットも手配して送ったら、チケットのデザインもこれだった。40歳で迎える場所で、まさかこのポスターが使われるとはね…」。
旭天鵬関は9月13日で40歳になる。
昭和以降40歳以上の幕内力士は能代潟、大潮、藤ノ里以来4人目。平成以降では初めてになる。
40歳で迎える場所で、旭天鵬関は偶然にも縁起のいい化粧まわしがポスターになった。
旭天鵬関は
「せっかくポスターにもなったからね、初日からこの化粧まわしをつけるよ」
と言った。
13日夜は、部屋のみんなが食事会を開いてくれるそうだ。
<記事:相撲デスク・佐々木一郎氏 Twitterより(2014年)>
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私たちの制作時は、相撲の神聖な空気感を表現すべく、その場、その場でのリアルな瞬間を撮影していました。
この時は膨大に撮影された写真の中から「化粧回の美しさ」をお伝えしたく選定したのですが、両者にこのような想いが込められてるとは知りませんでした。
さらにこの9月場所中、私も国技館へ観に行ったのですが、嬉しいことに、旭天鵬関だけでなく安美錦関、二人とも同じ化粧まわしを着けてくれていたのです。
これには感激しました。
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相撲の歴史は長く、そのルーツは五穀豊穣を祈る儀式から来ているとされています。
そのため、四股など一つ一つの所作にも神様と通ずる儀式的な意味があります。それが一般大衆向けに娯楽化し、今では日本を代表する文化の一つとなっています。
だからこそ、相撲は単に勝ち負けの力比べを楽しむだけではなく、そうした文化的な側面も知り、さらにそれを支えて続けてくれている方々の想いを感じるのも魅力の一つだと思うのです。
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大相撲を通じて得たことはあまりに多いです。
お仕事をさせてもらえて、感謝しかありません。
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