見出し画像

ケルズの書の書かれた、Kellsへ

2009年3月11日~21日 アイルランド紀行9
3月13日曇りときどき雨
Drogheda - Monastarboice - Kells - Donegal③

アイルランド屈指の至宝「ケルズの書」がかかれたケルズ(Kells)を訪れた。「ケルズの書」は中世の修道院の僧侶によって写本された聖書で、その壮麗な装飾で世に知られている。
特にマタイによる福音書の冒頭ページは絢爛豪華、そのあまりに繊細な金色の装飾に、実物でなく印刷の写真を見ているだけでため息がでてくる。Artだ。(冒頭写真)
ホンモノはダブリンのトリニティカレッジに収蔵されているので、ダブリンに戻ってからのお楽しみだ。

道の奥が聖コルンバ教会

「ケルズの書」は聖コルンバを称えるために制作されたという。この街の聖コルンバ教会にも、ケルト十字と見事なラウンドタワーがあるというので訪ねていった。
教会の建物を通りすぎようとしたとき、入り口上部に人の頭部が彫刻されているのに気づいて、ぎょっとした。

アイルランド特有のモチーフで、悪しきものを追い払う役割をしているのは本で知っていた。しかし、いくら護符代わりとはいえ、なかなか気味が悪い。

墓地でケルト十字を巡っているうちに、ポツポツと雨が降りはじめた。

寒さで手がかじかんだのと小腹がすいたので、裏通りのカフェに入った。地元の人が行きつけにしている、静かな静かなカフェだった。

あたたかな野菜スープと、スコーンにクリームとジャム。それからたっぷりの紅茶。
時間が止まってしまいそうな雨降りのカフェで、所在のない旅人の気分が押し寄せてきた。
心地よいような、あてどもないような…。

隣に夫がいてくれてよかった。一人だったら淋しさのあまり、公衆電話を探して日本の家族に電話をしているところだ。

20、30代の頃は、このアンニュイな所在なさを味わいたくて、ひまを見つけては一人で国内外をほっつき歩いてた。突き詰めるような自分探し……あれは若さからくるパワーだったかもしれない。

いまじゃ、すっかり落ち着いて、おいしいもの食べて、きれいな景色みて、楽しくて幸せ~!!みたいな単純構造になっている。年をとって、幸せな証拠だ。

ケルズにて、アイルランド東部の旅は終了。ここから先はまったく旅程を決めていなかった。ただ一つ西に向かうこと以外。

車に戻り、行き先を考えあぐねていたら、たまたま「DONEGAL」行きのバスが通った。「DONEGALってどこ?」 ミシュランの地図を広げる。すごい北だ。「ケルズから200キロ?遠いか…。」

でもそこは夫がアイルランドで購入したがっていたツイードの産地でもあった。「行ってみようか?行きあったりばったりは、旅の醍醐味でしょう。」運転手の夫が力強く言った。時計の針は3時…夕方6時までには到着したい。時速70kmで走れば、なんとか着くであろうか。

「それでは。」と強くなる雨の中、一路北西ドネゴールを目指して、アクセルを踏み込んだ。

※この旅行記は以前に閉じたブログの記事に加筆して、2023年3月noteに書き写しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?