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一本の記事づくりから考える雑誌編集者の「三方よし」。

昨日のnoteに書いたが、自粛期間が明けた、リモートではない現場の1本目がEXITのりんたろー。さんの撮影&取材だった。

雑誌編集者の三方よし

私は、編集者は「三方よし」にする仕事だと考えているところがある。

日本各地で活躍した近江商人が信用を得るために大切にしていたのが、買い手よし、売り手よし、世間よしという精神のこと。「商いは自らの利益のみならず、買い手である顧客はもちろん、世の中にとっても良いものであるべきだ」という現代の経営哲学にも通じる考え方。

EXIT りんたろー。さんが、今回の撮影を通し、SNSの発信をたくさんしていただけたので、とても自分にとって整理がしやすく、説明しやすい事象となったので、書いてみたいと思う。

今回のケースでいうなら「三方」は、以下のようになる。

「三方」
①編集者/メディア=私/VOCE
②タレント=りんたろー。さん
③読者

では、それぞれの「よし」は? これはいろいろな要素が考えられるのだが、一番ヴィヴィッドでシンプルなところだけを抜き出せば

「よし」
①数字(今回はPV/雑誌や書籍なら売り上げ)
②ブランディング(新しい魅力を引き出す)
③新しい発見、特別な体験

この「三方よし」が成り立てば、編集者としては企画の成功となる。

余談だが、①と②を目指して③を無視するのが広告の世界ではよくあるし、提灯記事と言われるのもここにあたるだろう。①と③だけで成立させようとするのがゴシップ記事だし(この場合、読者の方は②のファンとは限らない)、SNS時代到来で②と③で完結できてしまう現状に冷や冷やしているのがマスメディア(主にテレビや雑誌)ということになる。とにもかくにも、雑誌編集者は、メディアの存在価値を維持し、上げていくためにも、三方よしを成立させないといけない、と私は考えている。

「三方よし」の落とし所を考える

りんたろー。さんが美容専門誌で、自身の美容について語る。

それだけでも充分にインパクトはあるし、企画は成立するのだが、HOW TOは自身のSNSでも軽妙に語る機会が多いだろうから、「③のよし」満足度が落ちる可能性がある。何より私はりんたろー。さんのnoteを拝読し、内省する力に。そして、日々の活動で垣間見られる思慮深さや包容力、ビジネスマインドにも興味をもっていた。

本人もまだ言語化していない素の部分をどうにか引き出せないか。

それが、②のよし、③のよし、に繋がり、結果的に①のよしを引き寄せるはずだ、と考えた(経験値から言うと、①から入るとほぼ失敗する)。

インタビュアーにはお笑いに造詣が深い須永貴子さんを。そして、カメラマンには、そのままの表情を自然に引き出してくれる塚田亮平さんをブッキング。

最初のやりとりで「私、美容の知識、全然ないですよ」と律儀な須永さんは私に伝えてきたが「美容方法ではなく、なぜ、美容に目覚めたのか。それを深堀りしていただきたいので全く問題ないです」と伝えた。「取材テーマは、りんたろー。さんの人間としての思考の導線である」というようなことを二人で打ち合わせした。

カメラマンの塚田亮平さんには、「とにかく素材のままで。EXITのキャラのスウィッチが入らないように。りんたろー。さんの内面がそのまま写るように」というような抽象的なことを伝えただけだったように思う。

ヘアメイクの長坂賢さんには、「朝早い撮影なので、疲れていて、顔がむくんでいるかもしれないで、とにかくマッサージをしてあげてください。髪はとにかくナチュラルに。ファッション、ファッション、させないでください」と事前打ち合わせ。

そして、個人的にこだわったのが、私服での撮影。スタイリストをいれることも考えたが、衣装を着ると絶対にプロ意識があるりんたろー。さんはスウィッチが入ってしまうだろうから、と「私服でいけますかね?」と事務所に確認。「大丈夫ですよ」の一言にガッツポーズをしてしまったくらいだった。

その日にできた答え合わせと奮起

そして、当日は、惜しみなく美容論を語っていただいた。その直後に、りんたろー。さんは、

と呟いた。見た瞬間に、「これだよ!」と思って勝手に痺れた。

そして、その日の夜に、以下のnoteをりんたろー。さんは書いた。

とても充実した撮影と取材ができたのだということに安心しつつ、プロ意識について熱く語られている文章を読み、いよいよ絶対に「3方よし」に仕上げなくてはいけない、と気合いが入った。

そして、塚田さんから選ぶのに困ってしまうくらいたくさんの素敵なカットが送られてきて、須永さんからもこれまた素晴らしい原稿があがってきた(私が須永さんに返したメールの一行目は「どうしよう、須永さん、泣きそう笑。」だった)。うんうん唸りながら写真を選び、須永さんの原稿のどこにどの写真を入れればいいか、何回も入れ替え、読者の方の気持ちになって考えた。

ドキドキの公開日

怖いけれど、編集者は「③のよし」を確認するために、Twitterでエゴサーチをかける。喜んでいただけたようだとホッとする。そして、記事はYahooトピックスの総合の上位にも入るほどに大ブレイク。それをスタッフの方にも伝えつつ、私はエア祝杯をあげた。これで「①のよし」もクリア。

30代の頃はタレントさんの記事を多く作っていたのだが、「①と③のよし」は確認できる。けれど、「②のよし」はなかなかに確認することができないのが常である。事務所の方に「本人も気に入っているようですよ」と声をかけていただいても、気を遣われているだけかもしれない。繰り返し会える相手ではない限り、確信がなかなかもてない。

今回が本当に珍しいケースなのは、②の反応がきちんと確認できた、という点にある。

これほど編集者冥利に尽きることはない。

「三方よし」の好循環

SNSを使って、りんたろー。さんは編集者をものせていく。

こんなnoteを書くくらいなので確信犯だと私は思う。

EXITは絶賛雑誌祭り只中である。ほぼすべての雑誌に登場しているのではないか? という勢いで露出している。それについて、りんたろー。さんは逐一SNSで発信するので、「あっちはこうきたのか。こっちはどうでる?」というように、編集者の闘争本能にも火がつく。露出が多いタレントさんを扱う際は、もう本当に頭から火が出るほど考え抜かねばならない。

りんたろー。本当に、恐ろしい子(笑)!

こうやって「三方よし」は好循環する。どんな職業にも通底する普遍的な法則を江戸時代に見出していた、近江商人も、本当に、恐ろしい子(笑)!

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以前にEXITに触れた記事です。

これはEXITを含め、いろいろなコンビの方々を思い浮かべながら書きました。


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