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読書日記

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岡崎京子とオザケン。そして、あの頃と今と

岡崎京子さんの漫画『ジオラマボーイ・パノラマガール』が映画化され、2020年秋に公開されることが決定。その特報映像を観ると、小沢健二さんの『ラブリー』を歌う声が聞こえてくる。 日々目まぐるしく変化する東京の街を駆け巡りながら、ドキドキ、ジタバタする、ジオラマボーイとパノラマガールの2人の平行線の恋の行く先が描かれる。 岡崎作品の前期と後期私は岡崎作品を前期と後期に分けているところがある。それはバブル崩壊の前後と言えるかもしれないし、80年代的/90年代的と分けられるかもし

クドカン、仕事の量と質

『不適切にもほどがある!』『新宿野戦病院』ときて、『終わりに見た街』。宮藤官九郎はどんだけ働いてるんだろう? 昨年ディズニーで配信された『季節のない街』(今年、テレ東で放映)から考えると、このところはずっと震災やパンデミックについて描いてる印象。『あまちゃん』『いだてん』『俺の家の話』…まで、振り返ると、ここ数年はずっとか(そうでないと、「体重のってないのかな?」と邪推してしまうほどに)。 ギャグとか、内輪受けノリとか。たまに「迂闊なのか、わざとなのか?」な事実誤認(と受

自分のご機嫌、誰がとる?

『ナミビアの砂漠』の山中監督のインタビューを読んでいるが、私が内面化してきたであろうことをズバズバと指摘してくれるようで、最初はそれを申し訳なく思っていたけれど、だんだん清々しい気持ちにすらなってきた。 「自分で自分のご機嫌をとろう」と、私はメディアで多く発信し続けてきた自覚もあるが、やはりそれ(ざっくり言うならば、我慢)によって、その場はうまく回れども(いや、その気になっているだけかもしれない)、同時にまわりに、とりわけ下の世代に多くの負荷をかけ続けてしまうことなのだな、

うぶ毛はムダ毛なのか?

「葉子ちゃん、ひげ生えてるよ」。 中学生の頃、同級生から言われて驚いた。今、思えば、陰で言われ続けているよりはマシだと思うけれど、とにかく「恥ずかしい」と思って、家に帰って母親に「なんで言ってくれなかった!」と怒った記憶がある。多分、当時の大人から見たら、うぶ毛って初々しさの象徴のようなものだったと思うので(個人的にも、今となったらそう思えるのだが)、母親は微笑ましく眺めることはあっても、「剃りなさい」と助言することは考えもつかなかったはずだ。 今はキッズ脱毛というものも

「ポリコレ!」というツッコミ

「『SHOGUN』、ポリコレに配慮していないから最高!」 というような意味でXに投稿されたポストにより、「あれ、やっぱり正確に意味わかってない人、たくさんいるよな」と思いつつ。私も幾度となくケムに巻かれてきた、わかった気になって使いがちな「ポリコレ」という言葉。なんだか嘲笑、冷笑の類で引用されがちな昨今、 「本当の意味ってなんだっけ?」 に対して、わかりやすさNo.1の記事を見つけた。「新書1冊、簡単に出せますよね」というくらい内容とボリューム。助かる。 数箇所引用さ

コロナ以降の日本語のこと

コロナ禍、ステイホームで観るものがなくなった多くの人が、外国語映画、ドラマを観る機会が増え、「英語圏で字幕鑑賞の習慣が定着してきている」と聞いたことがある。動画が探せなくなってしまったが、真田さんも同じようなことをアフターパーティのインタビューで答えていた。 エミー賞での『SHOGUN』快進撃の一因にはなっているのかと思う。 村上隆もリハックで同じような発言(大意:パンデミックで配信プラットフォームがアニメを海外でどんどん供給してくれたおかげで、日本の漫画やアニメの多層的

英語と標準語。日本語と方言。

エミー賞授賞式の壇上に真田広之さん。日本語の謝辞が聞ける日が来た(そもそも『SHOGUN』劇中の7割が日本語)!! 数日前のVMAステージで、Megan Thee Stalionがパフォーマンス。共に千葉雄喜も"Mamushi"をパフォーム。日本人ラッパーが、日本語のラップ。会場が一体になる。 エミー賞のレッドカーペットのインタビューで真田さんは、「日本の映画製作者たちは時代劇を西洋化、現代化している。それを引き戻したかった」と語った。 最近、読んだ『お笑い芸人の言語学

アメリカ副大統領候補のこと

(おそらく2018年から)積読しっぱなしで、途中、netflixでの映像化を観たばかりに、読んでいた気にすらなっていた『ヒルビリーエレジー』をやっと読む。 言わずと知れた、共和党の副大統領候補に選ばれた J.D.ヴァンス の回顧録。トランプを大統領にまで押し上げた、ラストベルトの困窮する白人たちの悲哀がわかると当時ベストセラーになった一冊。それは本当によくわかるけれど、 出版から時が経ち、「なんでヴァンスは今こうなった?」がめちゃくちゃ気になってしまうわけで…。結局、政治

『ナミビアの砂漠』と『pink』

『ナミビアの砂漠』を観たら、どうしても岡崎京子『pink』が読みたくなり、実家にあるのに新装版を買って読む。そして、2度目の鑑賞。 ニヤニヤ苦笑しながら観ていたら終わった初回と違い、やたらと主人公カナの苛立ちとメンタルヘルス問題に意識が向かう。 『pink』のあとがきには、“愛と資本主義をめぐる冒険と日常“と書かれているが、カナは「日本は貧困と少子化で終わるので今後の目標は生存になります」と言う。前者の主人公はあっけらかんとしているが、後者はずっと空を睨んでいる。 “ひ

雑誌以外のお仕事2022『愛するということ』

書籍と漫画漫画の主人公とEXITりんたろー。さんに共通していたのは、圧倒的な素直さ。「愛は技術。音楽、絵画、医学…などの技術と同じ道をたどる必要がある」「愛の問題は、愛される問題ではない。愛する能力の問題だ」と説いたのは、エーリッヒ・フロム(『愛するということ』)なわけだが、「この2冊はそんな内容になったなぁ」としみじみ。   365日メルマガ配信紙の365日・日めくりカレンダーの写真と添えられた言葉とともに、神崎恵さんのメッセージを365日メルマガとして配信。動画は月1

【書籍編集者の「編む」以外の仕事】一冊の書籍を送り出すまで

発売まで、11月11日に発売する芸人りんたろー。さん初書籍『自分を大切にする練習』を担当している。 普段、雑誌の編集者をしているのだが、はっきりいって作業がかなり分業されているところがある。書籍では、編集部で分業している作業のほとんどが自分ひとり作業になるので、その度に「やること多すぎる!」とおののいている(年に1冊ペースの担当なので、毎回、新鮮におののいている自分もどうかと思う苦笑)。 企画し、著者に原稿をいただき、デザイナーにレイアウトを発注し、内容を編集する。それら

西加奈子著『夜が明ける』

先頃、「『新しい資本主義』によって世界の流れをリードする」というような提言がされた。経済に明るくない私でも、「それ、また、経済格差広がるやつ」だと思った。 賃金が上昇する先進国の中で、日本の賃金だけは横這いどころか、やや右肩下がり。物価が安いことを喜ぶだけのタームはとうに終わっていいはずだった。 コロナが過ぎ去った頃、海外に足を運ぶことになったのなら、その物価に驚くのだと思う。「安い!」と、韓国や台北、東南アジア各国に足を運んでいた時代を懐かしく思い出すのだろう。Netf

寝ても覚めても

「いかんいかん」と思いつつ、寝食を忘れてしまうくらいに、自分でも驚くくらいに働けてしまう時がある。それは嵐のように突如やってきて、アドレナリンだけを注入し続ける。 結果的に、その峠を超えたときは体重が落ちている。今がその時期だ。筋力も落ちているのだろうし、栄養状態がいき届いてないことを物語っているのだから、この年齢になると、それは全く喜ばしいことではない。だけれど、体も心も軽くなる。この感覚が嫌いではない。どうかとは思うけど。 私の場合、自分が自分ではないくらいに、「もう

「我は、おばさん」と、なぜ胸を張れないのか?

ミドルエイジを対象としたメディアを運営していた。大人女子という言葉が中年期の入り口に立っている女性の呼称として定着していた頃である。創刊編集長を担っていただいたスタイリストの大草直子さんは、頑なに「婦人」という言葉を打ち出そう、と譲らなかった。私はその思いに「婦人」が「(フランスにおける)マダム」のような響きになることを夢見ていた。 おばさんと呼ばれないための猶予期間を先延ばしにしたところで、大人女子と呼ばれようとすることにいつか限界がくる。そもそも、大人女子ってなんだ?