#1. インド系タミルマレーシア人の知人が話してくれた太平洋戦争の時代を生きたお祖父さんの数奇な運命
Matahari @ マレーシアです。
すごく久々に、Before Too Late / 東南アジア日本占領時代編
本日は、知人のインド系マレーシア人(タミル)の男性(60代)に聞いたお話し。
アイザック(仮名)は、わたしがいつも通っているローカルのチャイニーズレストランの店員。いつも陽気で優しくて、行く度に短い会話を交わす。
ある日、わたしが友達との待ち合わせのため店を訪れた時、いつものように笑顔で近付いてきて、手際よく注文を取りあっという間に飲み物を持って戻って来ると、わたしにこう尋ねた。
「最近来なかったね?忙しかったのかい?」
わたしは微笑みながら
「あれ?わたしのことそんなに待ってたの??」
と茶化すと
「もちろんだよ!そろそろ探しに行こうと思ってたところだよ。」
とジョークを言って場を和ませてくれた。
インド系(タミル)マレーシア人のアイザックは、このチャイニーズレストランでもう30年以上も働いているそうだ。
聞くと、もう大学生になるお子さんが二人もいて、奥さんは大病院のナース。このコロナ禍は、コロナ指定病院になった勤務先で多忙を極める奥さんを支えながら過ごしてきたという。
そんな日々の筆舌に尽くしがたい苦労を微塵も感じさせることなく、彼はいつもただただ明るい。
でも、話しながら、時折彼の目が曇る時があることに、わたしは随分前から気付いていた。
ある日、ずっと気になっていたことを、意を決してアイザックに質問してみることにした。
「ねぇ、ちょっと聞いていい?」
「これまでに、たくさん私以外の日本人客がこの店に来たでしょう?30年前ってどんな雰囲気だったの?」
当時1980~90年代は、マハティール首相の在任期間。就任とともに打ち立てた日本の近代化を手本とするルックイースト政策の全盛期だった頃。
多くの日本人がこの辺りにやって来たそうだ。
アイザックは視線を宙に泳がせながら、しばらく考えてからこう切り出した。
「当時80年代はね、チャイナタウンのパサール・セニ(別名セントラル・マーケット)にある郵便局(POS)のオフィスビルDayabumiの建設のために日本から多くの技術者が来て、この辺りにたくさん住んでいたんだ。その人たちが今度は家族を呼び寄せるようになった。それから90年代には、ペトロナスツインタワーが着工になった。建設会社や設備を担当する製造メーカーの関係者がわんさかやって来たよ。(注: タワー1は日本、タワー2は韓国がそれぞれ施工した)」
当時を思い起こしながら懐かしむように話してくれた。わたしは、周囲を見渡してお客さんがほとんどいないことを確認し、これはいいチャンスかもしれないと思い、もう少し踏み込んだ質問をしてみた。
「当時は太平洋戦争後から40年が過ぎた頃だけど、日本人に対する複雑な心境ってマレーシア人の中にまだまだあったんじゃないかな。」
わたしがこう切り出すと、アイザックはわたしの質問の意図を理解して、ちょっと戸惑ったように頭を掻いていた。その仕草を見ながら私は肩をすくめて
「いいのよ。私にはなんでも話して。」
と言うと、安心したような表情を浮かべてアイザックはこう呟いた。
「その頃、日本人同士がいがみ合っているのを何度か見たことがあるよ。帯同してる家族もメーカーごとに奥さんたちの集まりがあったりしてさ。夫たちが違う会社ってだけで口もきかないんだぜ。日本って大変な社会なんだなぁ、と思ったものだよ。」
アイザックは、ペロッと舌を出して、大きな声でハッハッハと笑った。
「KLに来たばかりの奥さんたちは片言の英語で注文するのも四苦八苦の様子だった。だから当時は日本語のメニューも置いてたんだよ。でもそのうち慣れて、帰る頃にはみんなよくしてくれたよ。日本に帰った後も子供が手紙を書いてくれたりさ。当時の写真が今もたくさんあるよ。」
わたしが笑顔で頷きながらアイザックの話を聞いていたら、突然本題とばかりに真顔で
「太平洋戦争といえばね、実は僕のお祖父さんは、太平洋戦争中に日本人のために働いてたんだ。」
いきなり話題が変わったので、一瞬理解できずに
「え?」
とわたしは聞き返した。
「え?太平洋戦争のこと聞きたいんだろ?」
アイザックはちょっと遠慮がちな表情をしたので、私は慌てて続きを促した。
「うん、僕のお祖父さんはさ、鉄道建設の作業員としてマレーシアからタイのある街に連れて行かれたんだ。」
前置きが長くなり過ぎました・・・。
続きます。
トップ画像は、1980年代に建設されたDayabumi Complex (出典: Tripadvisor)
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