腐れ縁のあの子が出した赤信号
3日ほど前から、のどがやられている。大きな口を開けて、鏡をのぞきこむと、あぁやっぱり。両端っこの扁桃腺が赤くなっている。
最初に扁桃腺肥大ってやつです。と言われたのはいつだろう? きっとまだ小学生低学年だったころ。お医者さんの言葉の意味は分からず、ただ母親から「あんたはのどが弱いんやって」と小学生用に翻訳された言葉に、そうなんかとうなずいた。
のどの両端っこの扁桃腺。季節の変わり目や、大きな声を出した翌日、そして自分のケアを怠っていると、すぐに真っ赤に腫れ上がる。私にストップ止まれと赤信号を出してくる。
学生の頃は、扁桃腺が腫れ上がり、高熱それこそ39度とかを出すことも頻繁にあった。今は高熱が出ることは減って、全身にだるさを与え、のどの痛みとそれから絡みつくような痰を生み出すのみになった。
大学に入った頃、扁桃腺を除去する手術があると知った。それを実際にやった人に出会ったのだ。その人は自慢げに大きな口を開け、私に覗けと言ってくる。「へーすごいね。痛なかった?」と礼儀よろしく聞いてみる。だって木陰で暗くて、口の中は見えなかったんだもん。
それから私の日常に、定期的に赤信号を出してくる扁桃腺を、取ろうと考えるようになった。でも実はこれ、大人になる前に手術をしたほうがいいらしい。大人になってから手術をすると、味覚障害になることも…とネットで見た。どうしようかと、それなり悩んだ。
結局、私はいまだに扁桃腺を持っている。腫れ上がるたび、なんで昔に取っておかなかったんだ、と悔やむ。でも味覚障害になるのが怖かった以上に、この名前がカワイイから、私は今も一緒に暮らしている。
桃だから。
きっとこれがキュウリとか茄子なら、迷わずに手術をしただろう。でも私の体に桃の名前がつくものがある。この事実が私をうっとりさせてしまうのだ。
今日は扁桃腺が赤信号を出して3日目。のどの痛みはおさまってきた。でも痰がからみついていて。掃除機で全て吸い込めたら楽なのに。そろそろ信号が青に変わらないかな? と思っている。充分この3日間、休んだと思うんだけど。
腐れ縁の扁桃腺は、厳しい。まだ無理をするなと真っ赤な顔をして、私にささやくのだ。
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