年齢の呪縛は、自分で解いていくしかないから

遥か昔。私がまだ17歳だったころ。

その頃の私は、20歳になると自分に価値がなくなると信じ切っていた。成人すること、それはおばさんになること。今自分が持っている全能感は消えてなくなってしまうんだろうと思っていた。



私は20歳を迎えた。実家から離れた京都の街で。いきつけの酒場ではなく、ちょっと背伸びをしたダイニングバーで、大学の友だちに20歳を祝ってもらった。お酒もタバコも堂々とできる。楽しかった。今の自分は17歳のときよりも強いと思った。

でも、大学を卒業して「女子大生」という肩書を失うことが怖かった。世の中の働くおじさんは私が女子大生と聞くだけで、鼻の下を伸ばし優しくしてくれる。バイト先のおばさんもミスを大目にみてくれる。「まぁ、学生さんだもんね」って。



それから私は社会人になった。自分の価値が暴落するだろうと思っていたが、そんな心配を忘れるほどに忙しかった。ただ、ひとつだけ学生の頃から圧倒的に変わったこと。ビールがおいしいのだ。汗水たらして働いた後、お疲れ!と声を掛け合いながら、グラスを合わせる。ごく、ごっくと喉に染みこませるようにビールを飲む。最高だ。ダラダラと生きていた学生時代には、想像できなかったうまさだ。

でも、アラサーと呼ばれる年代になることが怖かった。女性誌を開くと、その頃は30歳になったら、アンチエイジングを! と大きな見出しで書いてあった。老けるんだ…私。シワができて、太りやすくなって、婚活とかしなきゃいけなくなって、でも結婚できなくて焦って、世間からかわいそうにと思われるようになるんだ…。って。



29歳になった。その頃出版社をやめた。仕事は好きで楽しかったけど、人生の大きな節目を迎えるにあたって、もう少しゆとりのある生活をしたくなったからだ。その頃の私は漢方薬局に勤め、そこでオウンドメディアを作り、薬膳料理のワークショップを開催するなどしていた。

30歳。「若い」とは言い切れない、絶対的なおばさんの響きを持つ言葉。本当に29歳だった私は怖くてしょうがなかった。30歳になれば人生が終わるし、きっと私の事を恋愛的な意味で好きになってくれる人はいない。だから、30歳になるまでの1年、あらゆるところで私はまだ20代だよと言いふらした。そして習い事をいくつも始め、毎朝走り、漢方やサプリメントを取った。歳をとることの恐怖を忘れるために。



ついに!

30歳になった。17歳の私から見ると、完璧おばさん。いや、この世に存在しない年齢だ。でもなってしまった。

30歳の誕生日は友だちと飲み明かした。今でもその夜のことは覚えている。20代の私が持っていた呪縛から解き放たれて、翼が生えたように心が軽くなったこと。そうそう、バーで酔っ払うまで飲んで、それからスキップしながら家まで帰ったなぁ。なぜなら30歳になったからって、顔がシワだらけになることもなっかったし、昨日までの自分と何が変わったのか分からなかったから。


30歳になって良かった。と心から思う。

もちろん若さゆえの全能感みたいなもの、は粉々になって風に吹かれ消えてしまった。今は全能感はないけれど、辛いことがあってもまぁなんとかなるだろうという「希望」をもてるようになった。

その希望のおかげで、仕事も恋愛もそれ以外のすべてのことも20代のころよりも、楽しめるようになった。年齢に縛られていた20代に比べると、圧倒的に今のほうが自由だ。失うことよりも、これから得られるものに目を向けられるようになった。



そしてだ、33歳になった。20代のころには想像もしなかっただろう今の私。30歳で台湾に留学して、台湾の現地企業で編集長として働いて、そして今はベトナムに縁があって住んでいる。私が書いたものを待ってくれている読者がいて、交際ゼロ日で結婚した人がいて、毎日楽しいと思って暮らしている。これらはすべて30歳になってから始めて続けて、そして叶えてきたこと。

失っていくものにばかり気が取られていた私。ただの数字である年齢に過剰な意味をもたせていた私。

10代の私、20代の私に教えてあげたいなぁ。

30代になることは怖くないし、むしろ自由だよ。自分で作り上げた年齢の呪縛が解けるんだよって。



でもね。きっと分かんないと思う。残念だけど、こればっかりは30歳になってみないと分からない。

だけど、だけどさ。効果があるかは分からない。きっと20代の誰かの眼中には映らないかもしれない。でも、私は30歳からでも留学して、海外で暮らして、ノマド的に生活をすることはできるよって発信し続けたい。

今33歳になって、語学の勉強を一から始めたし、全くの未経験だけどデザインの勉強をしてる。デザイナーになってみたいから。


近くにいる人が年齢関係なしに、新しいことに挑戦して楽しそうにしてるな。30代って案外悪くない? って少しでも感じてくれたら…って希望を持ちながら。


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