朝顔

ぼくの朝顔は、ちょっと変わっている。
みんなと同じように植えたのに、梅雨の終わりに双葉が生え、夏休み直前になってから、ようやく支柱にツルを巻き付けはじめた。
そして夏休みも残り半分になった今日、やっとつぼみが三つできた。
「おはよう、そら。言ったとおりやろ?」
朝顔の葉の合間から、小指と同じくらいの人の形をした水滴が顔を出した。
「うん。ケンゴシの言っていたとおり、つぼみができたよ」
ケンゴシ。遠い星から地球に来た宇宙人なんだって。ぼくの植木鉢に不時着し、朝顔からエネルギーを分けてもらって、壊れた宇宙船を直しているそうだ。
――まだ、その宇宙船は見たことがないのだけど……
「そらが毎日、朝夕の水やり、がんばっているからな」
ぼくはくすぐったい気持ちに包まれながら朝顔に水をやり、タブレットでつぼみの写真を撮る。
「明日は朝から強い雨になるで。すまんが夕方には、風があまり当たらんとこへ頼むわ」
「うん、任せて」

次の日、ケンゴシが言ったとおり、朝から強い雨になった。こんな雨だと水やりはいいけれど、朝顔は、それよりもなによりケンゴシは大丈夫かなって心配になる。
そうして翌日、朝ごはんを終えるや否や、植木鉢を元の場所へ運んでいると、ケンゴシが朝顔の葉の間からその顔を見せた。
「よう、降ったわ」
ぼくはいつもと変わらないその口調に、ホッとした。
「……で、肥料持ってくれたか?」
「うん」
学校から持ち帰った朝顔の育ちが悪いからと、お母さんから貰った液体肥料。それを植木鉢に刺した次の日、ぼくはケンゴシと出会ったんだ。
それから半月、あんなに弱々だったぼくの朝顔は、もうすぐ花が咲きそうだ。
「……そら、明後日、何時もより一時間早く、ここに来られへん?」
ぼくは、はっとする。
「明後日花が咲く。そらが見たがっている宇宙船、一目見せてあげようと思ってな」
――ああ、とうとうこの日が来てしまったんだ。朝顔の花が咲く頃、ケンゴシの宇宙船の修理が終わる。そしたらケンゴシは……
「……なんや、そら。そんな顔せんとき」
そう言うケンゴシの目尻に、光るものがあるのに、ぼくは気づいた。

二日後、朝顔が咲いた。
「ほなな」
朝顔の花そっくりの宇宙船にケンゴシが乗り、ふわりと空に浮く。そうして、ぼくの全身をぐるりと回りながら、高く、高く、高く……
やがて夏の青空へと消えていった。
ケンゴシの宇宙船と瓜二つの朝顔が朝日を浴びる様を見ながら、ぼくは思った。
来年も朝顔蒔こう。そしたらまた君に会えるかな?


ちくま800字文学賞投稿作品に加筆訂正