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これからのフェーヴ


皆さん、明けましておめでとうございます。Bonne année! そしてHappy new year!  

さてまた今年も年があけると直ぐにエピファニー(公現節)がやって来る。

公現節とは何か?

イエスの洗礼を記念するものであって
毎年1月6日であるが、それはイエス・キリスト誕生の12日後と決められているから。

その日に何をするのかと言うと、お菓子を食べるのであり、起源は古代ローマの時代であった。サートゥルナーリア(農耕神)の饗宴で豆を一つ入れたケーキがサーヴィスされ、その豆が当たった出席者が王様に任命されるという習慣があったそうだ。

その後ルイ14世の時代に宮廷でも同じ様な事が行われていたそうであり、参加者は宮廷に出入りする事を許された女性達で、豆が当たると王様に願い事を聞いてもらえるという権利が与えられたという。しかしながらルイ14世はこの風習を廃止してしまったので後の時代に受け継がれることはなかった。
ふと勝手に思ったのだが、ルイ15世が同じ事をしたらちょっと大変だったであろうから、その前に廃止されてよかったのかもしれない(独り言なので忘れて下さい)。

現代では豆(特にそら豆の事を指す)ではなく、陶製の小さな人形が一つ入っているのだが、これは19世紀後半からである。そら豆はフランス語で<フェーヴ>というので我々はこの小さな人形の事を
<フェーヴ>と呼んでいる。


このフェーヴ入りのガレットを食べる機会に関してはまったく堅苦しい決まりもなく、1月6日周辺なら何時でも何処でも誰とでもよいのである。また、一人で何回食べてもよい。

そう、これは儀式ではなく、あくまでも風習なのである。

数年前のその時期に小さい子供のいる友人宅にお呼ばれした時にはやはり食後のデザートはガレット・デ・ロワであった。
その時のメンバーは7歳の双子の男の子、近所のお兄さん、奥様と私。やはりこういう場合は子供にフェーヴが当たって欲しいものだが一つしかないので双子のうちどちらかに当たると気まずいかなと多少心配であった。

結果、近所のお兄さんがフェーヴを当てたので「な〜んだ。」と拍子抜けではあった反面、ホッとしたのを覚えている。別に当たった人は紙で出来た王冠をかぶるだけで賞品が貰えるとか願い事を聞いてもらえるとか言う事はないのに、誰もが心の中では自分に当たらないかと期待してしまうし、また、子供がいる場合はやはりその子供を喜ばせたいと思う、不思議な魅力を持った慣わしなのである。

フランスに長期住んでいて1月6日にガレット・デ・ロワにまったく縁がないと言うのは珍しいことである。スポーツクラブに通っていた時もその日は必ず皆に配ってくれた程。そしてその場にいた人は皆カロリー制限も忘れて笑顔で受け取っていたし。

大統領官邸でも大きなガレット・デ・ロワをカットして配られるそうであるが、中にフェーヴは入っていないそうだ。
ルイ14世の時代と違って今やフランスには国王や王妃が存在しないのでという理由かららしいが、或いはもし大統領や夫人の前で誰か他の人にフェーヴが当たったら気まずいかもしれないと考えたのは私だけだろうか。


さて、ガレット・デ・ロワのレシピだが、実はこれが面白い。
基本的にはパイ生地の中にアーモンド・プードル、砂糖、卵、バターを合わせて作ったフランジパン(アーモンドクリーム)を入れて火を通したものだが、実は私はブリオッシュ生地で作られるガトー・デ・ロワ(或いはブリオッシュ・デ・ロワとも呼ばれる)も好きである。
これは地方によって飾りが異なるみたいだが、例えばプロヴァンス地方ではロワイヨームと言ってレモンピールなどを使ったものがあったり、南西地方ではコニャックを使ったりとヴァラエティに富んでいて、しかもどれも美味しいのだ。


一度、とある有名調理・製菓学校で製パンクラスの通訳としてお手伝いさせてもらった時のシェフが作ってくれたブリオッシュ・デ・ロワは本当に見た目も美しく、オレンジのコンフィ、シナモンスティックなどを駆使して、また、オレンジの花のエッセンスを使って味も最高であった。残念なのは味見に気をとられて写真を撮るのを忘れたことであった。

もうガレット・デ・ロワ飽き飽きと言う方は是非このブリオッシュ・デ・ロワを試してみて欲しい。

いずれにせよ、どれにもフェーヴは入っているのだが、そのフェーヴをコレクションするのも楽しい。何故ならフランスでもこのシーズンでしか通常手に入らないものだから。

ノルマンディー地方にグランヴィルという町があるが、そこは実はかの有名なデザイナー、クリスチャン・ディオールの生誕地である。現在ではクリスチャン・ディオール美術館があるが、そこと提携して<イヴェール(Yver)>と言うショコラティエでもあり、パン屋でもある店が地元にあるのだが唯一ディオールのオリジナルのフェーヴを入れてガレット・デ・ロワを作って販売する事を許可されているのである。これは欲しい。

普通のフェーヴと違ってモデルがディオールのデザインの服を着てファッションショーに出演しているようなとてもお洒落で素敵なフェーヴなのだ。
こんな世界中でここでしか手に入らないフェーヴが入っていて、しかもそれが当たったりしたら超ラッキーな一年間が過ごせること間違いなし。

ただしグランヴィルという町には車がないと簡単には行けないし、パリからはかなり距離がある。
が、2016年にカーン(Caen)という、パリから電車で行ける町(片道一時間ちょっと)にもイヴェールはオープンしたそうなのでそこに問い合わせれば嬉しい情報が得られるであろう。

ガレット本体の進化具合も目が離せない。但し結論から述べてしまえば、色々な新しいスタイルや味を楽しむのも良いが、やはりトラディショナルなガレット・デ・ロワをワイワイとスパークリングワイン(ここでは敢えてシャンパーニュでなくても、泡があればいいのだと私は主張する。)などで、ナイフとフォークもなしで手づかみでパクリと食べるのが一番良し。

パリのスーパーマーケットでは数日前から山盛りに積まれたガレット・デ・ロワが飛ぶように売れていく。
しかしながら人気シェフの発案したオリジナルのガレット・デ・ロワを試してみるのも面白い。

まずはやはり毎年この時期になるとヤン・クヴルーのガレット・デ・ロワに注目してしまう。この店のケーキは何でも好きだけれど特に焼菓子には目がない私。
見た目も凝っているので2倍楽しめるところは最大の魅力であろう。
マレ店の他にオペラのギャルリー・ラファイエットや、また最近モンパルナス駅にもヤン・クヴルー・カフェがオープンしたので簡単に手に入る。↓写真はガレット・デ・ロワ・ノワゼットで、ノワゼットとはハシバミの実のことである。まだ食べたことはないが、アーモンドパウダーの代わりにノワゼットパウダーを使ったのなら面白そう。

この様に中のクリームのヴァラエティに富んだアレンジも見逃せない。
他のパティシエでもごまや、アーモンドプラスオレンジの花のリキュールを加えたものや、ピスタチオやシナモンや…、或いはフランス全国に山ほどある<ブリオッシュ・ドレ(Brioche 
doré )>というサンドウィッチ屋では子供達の(私も)大好きなヌッテラ入りが食べられる。

こんな感じでフランス中でガレット・デ・ロワはこんにちこの時期には放っておけない存在になった。

世界のガレット・デ・ロワとなる日も遠くはないであろうと密かに期待している。

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