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キッシュロレーヌのおかげ


最近では朝イチにラジオでニュースを20〜30分聞いて目を覚ます習慣をつけることにした。
その前は某テレビを朝食を摂りながら見ていたのだがふと情報源に片寄りがある様な気がしてきたのと、何十分も聴いているとどうも繰り返しが多すぎるので思い切って朝の習慣を変えてみたのである。

ほんの2日前に朝のラジオから、フランス舞台監督のジャン・ジャック・ジルベールマン(Jean-Jacques Zilbermann)のインタビューが流れてきた。キッシュロレーヌの思い出について語っていた。
ジルベールマン氏のご両親は2人とも共産党員で、しょっちゅう会合やらでとても忙しく、お母さんは料理を作る暇もなかったそうだ。これではいけないと思ったらしく、料理教室に通いだして結局習得したのがキッシュロレーヌのみ。

ところがそのキッシュロレーヌはジルベールマン氏にとっては他のどの料理よりも、また他のどの家のお母さんのキッシュより美味しかったそう。ジルベールマン氏のお母さんは亡くなってしまったのでレシピはないそうだが、一体どんなものだったのか興味津々である。

キッシュ自体は今日フランスの食文化代表として、カフェ、レストラン、ティーサロン、パン屋、ケーキ屋、スーパーマーケット、冷凍食品、レシピ本などなど様々な形であちらこちらで、また世界の多くの国で日常生活見かけるようになった。

元々は16世紀にロレーヌのシャルル3世が肉抜きの日にこのキッシュを食卓に出すように命じたそうで、それで<キッシュロレーヌ>という名がついたそうだが、その時の正確なレシピは知られていない。が、特に材料からはロレーヌ地方のスペシャリティは見当たらない。ちなみにキッシュはロレーヌ地方の言葉でクーヘン(kuchen)を表すそうだ。
お菓子の生地で、今日通常ではキッシュには
パート・フィユテ(折パイ生地)あるいはパート・プリゼ(練りパイ生地)のどちらかを使う。

一般的に店で売られたりレシピ本に登場するようになったのは19世紀になってからだそうだ。

その時の材料はラルドン(ベーコンに近い。主に豚の脂身)、卵、生クリーム、チーズ(チーズを使わない場合も結構あるみたい。)などであったそうだ。

ちなみにキッシュはフランス料理とされているが、イタリアでは遅くとも13世紀、イギリスでは14世紀にはキッシュの様な卵と生クリームを使ったペイストリーは存在していたそうだ。


しかしなからフランスでのキッシュの広がり具合は目を見張るものがあった。
また、家庭科の授業がなかったので家で簡単にできるものと言ったら限られていたのだろうなあと思うと納得出来るが、それにしても最近の若者が何か作ると言うとキッシュロレーヌの場合がそう言えば多いなあと回想する。

大学の時にグループ研究の発表会があって8〜10人位のグループを形成したのであるが、学生最後の年はちょっと凝っていて、時間がランチにあたることもあって参加者をもてなす為にコーヒーや紅茶、ジュースの他に何か作ることになった。

費用は学校からでたけれどいくらかも覚えていないが雀の涙くらいだったと思う。採点の中に入るので下手なものは出せないと言うことでキッシュロレーヌとアップルパイをつくることになった。

大きなキッチン、特にオーヴンが必要だったのでグループ内の一人の子の家に集まって皆で作ることになった。
その時にラルドンを先に個別でオーヴンで焼いて真っ黒になるまで時間をかけて脂を落としていたのを覚えている。
「こうしないと脂の塊になっちゃうのよ。」と、さすが皆この子達はスリムなんだなあとつくづく思い、同時にフランス到着後に何も考えずに9kgも太った自分を改めて反省した。

結局そのキッシュロレーヌはまあまあ評判ではあったが、肝心なのは発表の中身であった。その内容はあまりよくおぼえていないが、その位ラルドンの衝撃が強かったのであろう。


キッシュロレーヌには軽食という言葉が合うと思う。メインディッシュというより前菜、アペリティフの際にミニ・キッシュをつまむのも良いかなと思う。
そう、フランスではキッシュが前菜によくでてくるが、もっと小さいポーションで出してくれればメインディッシュの妨げにならないのにと提案したい。前菜にタルト型1/6位のキッシュがサーヴィスされた暁にはメインディッシュが目の前に出て来る前にゴメンナサイと謝らなくてはならなくなる事もしばしばある。

やはり少量のキッシュにグリーンサラダを合わせたものと軽めのアルコールでメインディッシュ前にやる気をモリモリと上げていきたい。

そんなときには何のドリンクと合わせたらいいだろう。

もちろん紅茶なんかも良いだろうけれど…。

そもそもアルコールと卵のマリアージュってそう簡単ではないのだ。

それでも私だったらクレマン・ダルザスのお供にミニ・キッシュというところか。今回はこの組み合わせをイチオシにもっていきたい。

クレマン・ダルザスとはアルザス地方で生産されるスパークリングワインのことである。シャンパーニュ地方ではないのでシャンパーニュとは呼べないが作り方もメトード・シャンプノワーズで、そっくりの味わいで値段は安めなのでお勧め。もちろんシャンパーニュにしてもよいが、あのアワアワにキッシュが負けてしまいそう。やはりクレマンがお勧め。オレンジジュースで割ってミモザスタイルにしてもよいし、少量のリキュールと合わせてキール・ロワイヤル風にしても楽しめる。クレマンにはアルザスの他にボルドーやブルゴーニュもあるが、この場合ロレーヌ地方の近くなのでクレマン・ダルザスを選んだ。その辺はワインと料理のマリアージュの鉄則、郷土性をリスペクト。

また、結局キッシュロレーヌの名の由来はロレーヌ公爵から来たものとはいってもロレーヌ地方と言えばミラベルという丸くて小さいプリューン系フルーツがある。


今どきが旬なので来年の8月、9月にフランスにお越しの際には是非お勧め。デパートなどでは高いのでマルシェで買ってよく洗って食べれば値段的にも問題ないであろう。

キッシュロレーヌと酸味のしっかりしたミラベルなんて美味しそうな組み合わせである。もちろんミラベルのリキュールをベースに先程の様なオリジナルカクテルにしてもよいし、ミラベルのジャムを使って何か出来ないかなとも思う。


天気がよければ庭で、あるいはバルコニーでキッシュ、チーズ、サラダ、ドリンクでブランチなんていうのもウットリしてしまうシチュエーション。下の絵はモネの作品、<ランチタイム(Le déjeuner)>。手前にあるフルーツはレーヌクロード、やはりプリューン系で今どきのフルーツであるが、ミラベルより甘い。以前、同じくnoteでティータイムについて書いた時も登場させた絵であるが私の理想のひと時はこんな感じである。








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