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スパイシーな冬


2021年もあと少し。

毎年この時期になるとZENという文字が見当たらなくなる。
「ああこれもやってない。」
「あれ忘れてた。」だらけの私の毎日。

途端にやり忘れていた事を思い出す。
また、世間も何故かこの時ばかりと私に迫って来るようだ。

そう、食いしん坊の私としてはこのシーズンを逃したら食べ損ねてしまう恐れのあるものが気になって仕方がなくなる。

今だったらそれはシュトーレンである。
ドイツ菓子とは言われてもこの時期フランスだってアチラコチラで売っている。
夏に食べるのも何か変であるし。

このお菓子を想う(或いは食べる)ことによって「ああもう12月かあ。」としみじみと今年もあと少し、ここまできた自分を取り敢えず褒めてみる。
そういうのってつくづく季節感があっていいなと思う。

また、この時期は無性にスパイシーなお菓子を探してしまうことに気づく。シュトーレンには元来スパイスは入っていなかったそうだが。

原因はと言えば思い当たるのが、このシーズン特に気になるヴァン・ショー(ホットワイン)を見るたびに(飲む度に)当然の事ながら季節を感じ、合わせてやはりスパイシーなお菓子が食べたくなるからである。体が暖まるからであろうか。

そういうと日本だったら生姜を甘酒に入れたり、あとは葛湯にも擦り下ろしたりして飲むとポカポカの頂点である。

ヴァン・ショーは冬になると、特にクリスマス・マーケットではよく見かける。
大きな銅製の寸胴鍋で低温で温めながら一日中会場の雰囲気を盛り上げてくれている。大抵のカフェでもメニューの中にあるので気軽に注文出来る有り難い。

歴史的に、ワインにスパイスを入れて温めた飲み物はローマ時代からあったそうだ。そしてそれに砂糖やフルーツを加えて消化助長の為にと広がったのは中世の頃からだそうだ。

↑このイメージは中世の写本で、一人の僧侶が樽入りのワインをこっそり容器に入れている。さらに鍵を手に持っている事や、特に僧侶の表情から普段閉まっているカーヴを勝手に開けて樽の中のワインを盗んでいるんだなと思うわけ。

実はこの時代には僧院内でワインを作ることは匂いの関係からか地主によって禁じられていたそうだ。

それで僧侶たちはカーヴに隠しておいて時々こっそりと少しずつ取りに来ては飲んでいたのだなと思うのだが、そこまでするほど美味しかったのであろうか?

当時アルザスに住んでいたジェローム・ボックという牧師であり、植物学者でもある人物が当時の薬剤の公式処方箋集の中でハーブ入りワインは胸の痛みを和らげ、またお腹を壊したときの治療に効果があるという理由から奨めていたという話がある。味はともかく、人は健康維持に役立つというのはたとえたいして美味しくなくても飲みたくなるものだ。

あたり前そうな話であるといえば否定はできないが、実はそんなワインを温めて飲むヴァン・ショーにはこういった背景があったと知ると、日常生活との関連性が湧いて来る。

さらに付け加えると昔からヴァン・ショーは宴の際によくサーヴィスされていたそうだ。

しかしながらクリスマスでホットワインという習慣は19世紀末までは特に無かったそうだ。


ここだけの話し、私はガイドという職業についてからアルザスのクリスマス・マーケットに行けていない。それ故に大昔の話であるが、ストラスブールのマーケットに行った時はあまりの人混みで前の人の背中しか見られず、息も出来ずのんびりワイワイと過ごせなかった思い出しかない。だから馬鹿の一つ覚えみたいにヴァン・ショーをひたすら求めていたのを覚えている。アルザスのヴァン・ショーは白ワインベースと聞いていたので、楽しみにしていた。

確かに美味しかったし、翌日のコルマールでは早めの時間に出かけたのでそんなには混んでいなかった。散策とともに白ワインのヴァン・ショーを落ち着いて味わえた。

「美味しい!最高〜。」

最近ではアルザス地方自体も滅多に行かなくなってしまったが、魅力たっぶりであることに変わりない。昔に比べるとパリからの電車での移動時間もかなり短縮されたので近いうちに再び行きたいところの一つである。

ヴァン・ショーに関して言えば、別に自分でこしらえれば良いのだが(実はたまにつくっている)やはりあの大きな鍋に入っているところにそそられるのである。

で、意外なことに他のところでも白ホットワインを見た話しに移ろう。

ノルマンディー地方のオンフルール(Honfleur)という人気の町のクリスマス・マーケットの時だ。旧港のところにある小規模なものだが、この町自体古くて可愛らしいものだらけの素敵なところ。実は画家のウジェーヌ・ブーダン生誕の地である。一度は訪れたいところだ。

ウジェンヌ・ブーダン
小舟と桟橋
1890−1897
アンドレ・マルロー近代美術館


ここオンフルールのクリスマス・マーケットではヴァン・ショーは白ワインであった。大抵は赤ワインが多いのだが…。
通常冬のオンフルールはシーズン・オフで静かで寒いけれど、そんな時でも飲みながら散歩すれば心も体も暖まるというものだ。この行事は去年(2020年)は中止になってしまったが、今回は2022年の1月2日まで開催の予定。

といっても今ではパリでも多くのクリスマス市で赤白両方のヴァン・ショーが飲めるようになった。一箇所で赤か白か選べるのは良いのだが、ちょっとつまらない気もする。

さて、気を取り直してヴァン・ショーの作り方を確認。基本的に砂糖、シナモン、アニス、クローブ、ナツメグ、フルーツ(オレンジ等)を入れて鍋で温める。沸騰させてはいけない。火を止めたら蓋をして5分程おいておく。

やはりスパイスのきいたお菓子を一緒に食べたいが、フランスにはパン・デピスというとってもスパイシーで癖のある味わいのお菓子があるのでヴァン・ショーと合わせてみると良い効果が期待できそう。こちらは名前の通り(pain d'épiceのépiceはスパイスのフランス語)スパイスがたっぷりだが、蜂蜜もいい味出している。スーパーマーケットでも年中手に入るが、私はこの時期になると無性に食べたくなる。ヴァン・ショー以外に紅茶と合わせても良い。

味わいは独特だし、ほっこりと暖まって体にも良いというこれらの冬の贈り物を充分楽しもうではないか。

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