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薔薇の夢 ーバガテル公園


もし来年の6月あたりにパリに来られる薔薇好きな方には郊外ブローニュの森内にあるバガテル公園(Le parc de Bagatelle ル・パーク・ドゥ・バガテル)がお勧め。

見どころは薔薇だけではなく他の花や緑、バガテル城や人工の滝、洞窟、放し飼いの孔雀などたくさんあるが、なにせ全体で1100種類ほどの薔薇がおよそ9500本植わっているのが自慢である。薔薇園は一箇所だけではなく、中には見たことのない珍しそうな花まであって、また展示の方法も各所工夫されていて見事である。


私もここ数年頻繁に来ていたけれど全然飽きない。去年は機会を逃してしまったので今年こそはと6月某日に思いきって足を運んだ。このバガテル公園、実はパリ中心から市バスで行けてしまうのでそこも良い。サン・ラザール駅すぐ近くから(始発は北駅)週末のみ、バガテル公園正面入り口真ん前に止まってくれる市バスがあるのだ。

入場料は2ユーロ50サンティムでシーズンオフは無料。だが薔薇のシーズンは本当に夢のような幸せ気分に浸れるので6月に是非行ってみて欲しい。

園内には放し飼いの孔雀が数羽常に歌いながら(声が大きいのでむしろ吠えているといった感じ)歩きまわっている。特にこのシーズンは恋の季節であって、羽根を広げるのはメスの孔雀への求愛表現と言われるが、どうやらそれだけではないらしい。たまたま通りかかった時に家族連れが一羽の孔雀を囲んでおり、男の子が触りたそうにしていた。その時孔雀はパーッて羽根を広げた。その姿はあまりにも美しかったが、どうやらそれは威嚇の表現であったと思える。男の子がさらに近づくと、今度は羽根を横に窄めてその子を追いかけ出した。結構凄い勢いだったのでこちらも驚いた。


それにしても色とりどりの美しい薔薇は本当に人を楽しくさせる。特にここではどうしても知ってる名前がそれぞれ小さなプレートに書いてあるのでそれを見て探してしまう。例えば下の写真は<ボニータ> ↓

更には<ボルショイ> ↓

そして今回私が一番気に入ったのがテノール歌手の名をとった<ロベルト・アラーニャ>である。↓

とにかく色彩が美しく、形も良くて輝いて見える。

他の花も素晴らしく、それぞれが個性的な香りを発しているのだが、鼻を近づけないとわからない。強い香りが混ざってしまい、互いを消してしまうのであろう。

番号付きはコンクールに出展しているもの。(ここでは特に写真は載せていない)毎年6月に開催されて花の質、量、開花期間、香りなどの要素から審査される。でも一面に広がる多数の薔薇は甲乙付け難く、個人的にはただただ眺めているのが一番だなとつくづく思う。

さて、バガテルというとあの<ゲルラン(Guerlain)>のコレクションの中に<バガテルの庭(Jardins de Bagatelle)>と言う名の香水がある。ベルガモットを中心に、白い花(ジャスミン、ネロリ、チュベローズ、ガルデナ)で構成された甘い香りだ。
その中に薔薇は含まれていないけれどとにかく華やかと言う表現が合う。

花が好きで香水にもこだわりを持つといえば真っ先にこの方を思いだす。

マリー・アントワネットである。

エリザベス・ヴィジェ・ル・ブラン
薔薇の花を持つマリー・アントワネット
1783年
シャトー・ドゥ・ヴェルサイユ(プティ・トリアノン)


バガテル城というとこのマリー・アントワネットが義理の弟であるアルトワ伯爵(後のシャルル10世)が1775年にこの土地を取得した際に城がどれだけ早く建てられるのか賭けをしたことでも知られている。マリー・アントワネットは短期間で出来るわけないと言ったが、城と庭園はたったの64日間で完成(内装や家具調度の配置は除いて)したのでマリー・アントワネットは賭けには負けたことになるのである。

その後城完成のお祝いパーティには夫のルイ16世とともに招待されているのだから少なくとも一度はこのバガテルに足を踏み入れている事になる。
薔薇が好きで上の絵では一輪の薔薇を持っているマリー・アントワネット。
これは女性では当時珍しく宮廷画家であり、王妃のお気に入りであったル・ブラン夫人によるポートレートである。色彩のバランスが良く、薔薇の花の存在が王女をより美しく輝かせている。この時マリー・アントワネットは31歳であった。

フランス革命が起こるとアルトワ伯爵は亡命し、バガテル城は国のものになる。
その後レストランになったりと城はそれまでとは違った運命の道を歩き始める。

バガテルに現在のような薔薇の庭園ができたのは20世紀に入ってからである。

↑ 上の写真の薔薇の名前は<ポンパドゥル>、そう、マリー・アントワネットの義理の祖父であるルイ15世の公式の愛妾であったポンパドゥル夫人の事である。
美人薄命ではあったが、賢いかたであったようだ。薔薇と言う花はまさにそんなイメージの女性をも惹きつけていたのだな、そういえばナポレオンの妻ジョゼフィーヌの薔薇好きも有名であった。

バガテルの薔薇園に行ったらフランスの歴史の中に出て来るこの様な女性達の事を思っても良いと思う。ただし自分の夢の中に浸りきっているのが一番お勧め。
他のすべての事を忘れられること請け合いだから。

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