#【月夜とハンドバッグ】
ほぼ毎日行くスーパーがある。
以前は24時間営業だったが、今は朝6時から深夜1時までに変わった。
それでも近くにコンビニがないので、有り難いと思う。
最近になって、そのスーパーに毎日くるオジサンがいるのを知った。
私は早起きなので、開店と同時に店に入ることも多いのだが、必ずそのオジサンもきていた。
イートインの椅子に、黙って座っている。
白髪頭のバサバサな髪をして、着ている服も毎日同じだった。
オジサンのキャリーカートには、たくさんのスーパーの袋が結わい付けてある。
5個、いや6個はあると思う。
何も買わずに一日中、店にいるオジサンだが、店側は別に気にしていないようだ。
中年から初老の男性を見つけては、気さくに話しかけるオジサン。
相手も嫌な顔をせずに会話している。
オジサンは何故、団地群のスーパーに現れたのか、私は不思議に思った。
どこか部屋を借りてるのだろうか?
それとも他に寝る場所があるのだろうか?
深夜、閉店間際のスーパーに、私は小走りで向かっていた。
すると、暗闇の中に人が立っているのがぼんやりと見えた。
あのオジサンだった。
その夜は満月で、オジサンはじっと、月を眺めているようだった。
その時、私はオジサンのキャリーカートには、スーパーの袋の他に、女性物のハンドバッグが下がっているのを見つけた。
なんで女物のハンドバッグを持って歩いてるのだろう。
もちろん答えは分からない。
でも、なんでだろう。私はオジサンが団地の中のスーパーに通っている事と、このハンドバッグは関係がある気がしていた。
「奥さんと暮らしてた?」
いや、やっぱり分からない。
オジサンは、まだ月を見ている。
何かを思い出すように…。
私はスーパーへと急いだ。
「こんど機会があれば、話しをしてみようかな、オジサンと」
そんな気持ちになる月夜の晩だった。
(完)
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