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#【喫茶 白樺】第4話

今夜も私は白樺に向かって歩いてた。

お店が見えてきた時、扉の前に人がいるのが分かった。

今夜は霧が立ち込めているので輪郭しか分からないが男性のようだ。

変な人だったら、嫌だなぁ。

深夜だし怖い。

その男性は扉の前をウロウロしたり時々、中を覗き込んだりしている。

私は店に着いた。

男性は私に気が付かない。

話しかけられぬよう、扉を開けようとしたら、「あの〜」と声をかけられてしまった。

仕方なく私は男性の方を見た。

まだ若い青年で、今でゆうイケメンだ。

私は毅然とした態度で、

「なんでしょうか」と云った。

私の言い方に青年は、怯んだので、その間に店内に入った。

「小夜ちゃん、いらっしゃい」マスターが、笑顔で迎えてくれた。

私は直ぐにマスターのところへ行き、

「マスター、外に変な人がいる」と告げた。

「あー、さっきからずっと居るんだよ。

放っておいたけど、やはりいい気持ちはしないよね」

そう云って、マスターは扉を開けて、

「なにか用かね」と青年に訊いた。

「あ、えっと、入っていいですか?」と、しどろもどろに青年は云った。

「どうぞ」と、マスターが云うと、青年はオドオドと店に入ってきた。

今夜は、千穂さんも晃さんも来ている。

その他にも三人、お客さんがいた。

青年はキョロキョロして、奥のテーブル席に座った。

隣のテーブルにいる晃さんは、チラッと青年を見たが、直ぐにヘッドホンで音楽を聴き出した。

「決まったら声をかけてください」

マスターはメニューと、お水を置いて戻りかけた時、

「ダージリンをください」と青年は即座に注文をした。

「少しお待ちください」と、メニューを脇に抱えてマスターは、カウンターの中に入った。

私は下書きに、ペン入れをしようと、インクや修正液をテーブルに置いた。

すると青年が、いつの間にか、私の側にいて、「もしかして漫画家の人?」

と、話しかけてきた。

「そうですけど…」私がそう答えると、青年は、「スゲー!本物の漫画家を始め見た!ペンネームは何ていうの?」

なんなんだ、この人は。

私はムッとしながら、「ペンネームはないです。本名なので」と、応えた。

そして思いっきり、話しかけるなオーラを出し、ペン入れを始めた。

「おばさん、服の趣味がいいね。でももう少し派手な服の方がいいよ。おばさんがおばさんっぽい服を着ると、益々おばさんになるからさ」

あわわわ

千穂さんのところへ行ってしまったのか!

千穂さんは、ガン無視をしていたが、煙草を持つ手が、微かに震えている。

「この人はファッション関係の仕事をしているんだ」

マスターが、たしなめるように、そう云った。

「へぇ、だから、このおばさんは趣味がいいんだ」

青年は自分が座っているテーブルに戻り、冷めているダージリンをゴクゴクと飲み干した。

すると隣のテーブルに座っている晃さんを見た。

晃さんが、譜面を書いているのを見た青年は、晃さんの目の前に座ってしまった。

「もしかしてミュージシャンの人?」

晃さんは、ジロっと青年を見て、頷いた。

「CDとか出してる?」

晃さんは、ぶっきらぼうに頷いた。

「YouTubeでも観れる?」

「ああ」

「スゲースゲー、漫画家の次はミュージシャンだ!マスター、この店すごいっすね!」

「そうかい?」

「すごいっすよ、もっと早くに知りたかったな。残念」

「どこかへ行くのかい」

「はい、オーストラリアの学校に行きます。俺、就職が決まらなかったから」

「英語が話せるなんて凄いな」と云ったマスターに、「全然」と、答える青年。

「行っちゃえばなんとかなるかなぁって軽いノリで。俺ってバカだからさ」

マスター、千穂さん、晃さん、私は心の中で、「うんうん」と頷いた。

「本当の目的は、好きな彼女を追いかけていくんだ。一つ上の彼女はオーストラリアに留学しちゃったから、俺すごく寂しくて。彼女と結婚したいんだ」

「たくさんしゃべったら腹が減ったな。パンケーキください」 

「悪いがパンケーキはやってないんだ」

「えーー、こんなに流行ってるのに」

「だけど、置いてないんですよ」

「パンケーキ、やったほうがいいよ、儲かると思うし」

「でも、いまのところはパンケーキをやる予定はありません」

珍しくマスターが不機嫌になってしまった。

三人のお客さんがレジで精算しているのを見て、青年は、「眠くなってきちゃったし、帰ろうかな」

マスターが、「キミが中々、店に入ってこなかったのは、何か理由があるの?」と聞いてみたら、青年は、「深夜に開いてる店だから、不良の溜まり場になってたら怖いから」

そう答えると、代金を払いながら、

「みなさん大丈夫っす。心配しなくても俺ん家は金持ちだから、絶対に彼女と結婚するから」

誰も心配していないと思うけど、そう言い残して、青年は出ていった。

みんな、一斉にため息をついた。

一気に老けた気がする。

「マスター、マンデリンお代わり」

「俺もブレンドを頼む」

「その前に、みんな、ちょっと来てくれ。味見を頼む」

カウンターに集まると、マスターは、

ある食べものを置いた。

「マスター!それってパンケーキ!」

マスターは本を何冊かカウンターに置いた。全部パンケーキの本だった。

「流行っているんだろう?」

照れ臭そうな、マスターを見て私は吹き出してしまった。

千穂さんも、晃さんも笑い出した。

お店の外まで聞こえそうな声で、みんな笑った。

              第4話 おわり









  

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