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#【優しく微笑みたい】

その青年は、道端に落ちているゴミが気になるらしく、どんなに小さなゴミも見落としはしない。


一日中、歩き回り、拾っている。

相当な距離を歩いているためか、かなり痩せている。


“青年“と、云ったが、帽子を目深に被っているので年齢の見当が難しい。


町内では有名なので、彼がゴミを拾いながら歩いていても、ジロジロと見る人はいない。


真夏の炎天下でも、凍えそうな真冬の日でも、彼は歩いて周る。

正直、私は彼を見かける度に、痛々しく感じてしまう。


精神的な病いだというのは、一目で分かる。

病名までは、分からないけれど。

「家族と住んでいるのかなぁ。一人暮らしなのかな」


そんな余計なことを思ったりする。


        ☘️🌷🌱


私の住んでいる地域に限ったことなのかは、分からないけど、病んでる人を見かけることが多々ある。


集合住宅に住む私の家の真向かいに、

やはり病気なのだろうと思わされる女の子が家族と住んでいる。

女の子と云っても、高校生くらいの年齢にはなっている。


このご家族のことを、私は気掛かりでいる。

何故なら、このご家族は、2人の息子さんがいて、仕事もしている。

ご主人は、定年退職をしたのか、一日中家にいる。


私が気になっているのは、奥さんのことなのだ。

毎朝、5時半に仕事に出かけている。

ちょうど、帰宅した時にポストの前で、あったことがある。

7時近かった。


小さな、か細い体の奥さんは、たくさんの買い物袋を下げている。

優しい人であるのは、越して来て直ぐに分かった。


私が気掛かりなのは、何故、働いている息子さんが2人いて、ご主人も家にいるのに、奥さん一人が全部引き受けているのか、と思うからだった。


誰も奥さんの負担の一部でも、引き受けてあげないのだろうか。


私が引っ越して来て直ぐ、ポストに小さな紙が入っていた。

向かいの奥さんからだった。


聞いたことが無い宗教の勧誘だった。

全く感心がないので、そのままでいた。

奥さんからも、何も云ってこなかった。


      🍀🌷🌱


でも、今なら宗教に走った奥さんの気持ちが分かる気がする。


病気の娘さん、働いているのに、いつまでも母親を早朝から仕事をさせる息子たち。

何もせずに一日家にいる夫。

誰一人として、奥さんのことを思いやらない家族。

知りもしないで、勝手な解釈をしているのは、分かっているが……。


夕方、ポストの前で会う度に、たくさんの買い物袋を下げて帰宅する、その姿を見る度に私は切なくなる。

弱々しい笑顔で挨拶をしてくださる奥さん。


因果応報とでも云うのだろか。

もし、そうだとしても、私は納得できない。

カルマとでも云うのだろか。

でも、やっぱり私は腑に落ちない。

ただ、悲しくなるだけで……。


      ☘️🌷🌱


ゴミを拾いながら歩いていた彼を、見かけなくなった。

引っ越したのだろうか?

それとも入院したのだろうか?

そんな事を思ったりする。


話しをしたこともない彼だけど、寂しく感じる。

幸せでいて欲しいと願う。


その日の夕方も、ポストの前で奥さんに会った。

今日もたくさんのスーパーの袋と一緒だった。


私は、「少し持ちます」

自然と言葉が出ていた、

奥さんは、いいです、いいです、重たいから。

そう云った。

重たいのなら、尚更だ。

私は袋を3つ持つと階段を上った。



ゴミ出しの日に玄関前で会った時は、

そのゴミ袋を持ち階段を下りた。


ゴミ袋を触られるのは、抵抗があるかもしれない。

けれど、ゴミ袋の数は、10個もある。

一度に出すのは無理だと思った。

奥さんが、階段を何往復もすることが分かっていた。


恐縮する奥さんに、大丈夫ですから。

そう云って下まで降りた。


そうなんだ。悲しんだり、切ないと泣いてるなら、出来ることをすればいい。


      ☘️🌷🌱


気の早い街にイルミネーションが輝き出したころ、あの彼を見た。

やはりゴミを拾っていたが、前より動きがゆっくりになっていた。

拾う回数も減っている。


たぶん入院していたのだろう。

かなり回復傾向にあると感じた。

私は彼がこの街に戻ってきたことが嬉しいと思った。


そして先日、スーパーの深夜勤務をしていた女性が辞めると知った。

彼女は黒人女性だ。気の強そうな感じで私は最初は怖かった。


でも、最近では時たま、会話をするようになっていた。

話しをしてみると、全然怖くはなく、いい人だと思った。


随分、長い間、働いていた。

親そうな女性が、「またねー」と、

云っているのを聞き、私は黒人の女性に、「長い間、お疲れ様でした」

と、挨拶をした。


黒人というだけで、嫌な思いもしただろうと想像がつく。

だから、バリアーを張っていたのだ、そう思った。


最後の仕事を終えた、彼女は、私に、

「ありがとう、元気でね」

清々しい笑顔で、そう云った。


向かいの奥さんは、私を見かけると、笑顔で声を掛けてくる。


いつか、ゴミを拾っている、あの彼と笑顔で挨拶出来る時がくることを、信じている。

きっと、そう遠くない気がするのだ。


      (完)















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